第230話 新たな決意

「はっはっはっ。英雄様どんどん飲んでくださいよっ!」

「は、はい……」

 あれから飲み会が始まり、康生は隅で一人食事をしようとしたが、結局すぐに捕まってしまった。

 以前のこんなことがあった気がしたが、今回は上代琉生がわざと康生を中心に盛り上げるような動きをしているので逃げようがなかった。

「もうっ!康生は安静にしなきゃいけないんだから気をつけてよねっ!」

 そんな中。人混みの中からエルを顔を出した。

「大丈夫だよエルちゃんっ!ちゃんと体調には気をつけてるから!」

 そして結局、エルも加わってさらに輪の中が盛り上がる。

(うぅ……やっぱりこういうのはいつまでたっても苦手だな……)

「はっはっはっ!」

 でも。それでも楽しそうに笑うエルを見て、少しだけ心が和むような気がした。

 自分も少しはこういう場所に慣れてきたのかもしれない。

「大丈夫か康生?」

 とエルに続いて時雨さんまでもがやってきた。

 時雨さんはその手に料理を沢山持っており、どうやら康生のために持ってきてくれたようだった。

「ほら、とりあえずこれ食べて元気出して」

「あ、ありがとうございます」

 時雨さんから料理を受け取り康生はゆっくり食べ始める。

 この宴で、なんだか自分がひどく甘やかされているような気がして少し居心地の悪さを感じていた康生だったが。今はこれはすべて皆の優しさからきているものだと感じ始め、苦ではなくなった。

「ほ、ほらっ!もっと食べろ康生!じゃないとすぐにまた魔力切れになるぞっ!」

 とゆっくりと食べている中に、翼の女――もといリナさんがやってきた。

 どうしてか先ほどから顔を赤くして、少し怒っているようだったが、康生は理由が分からないので何もすることが出来なかった。

「は、はいっ」

 だからこそとりあえずは言われた通りに、沢山食べる。

 料理はどれも美味しく、食べているうちにどんどんと箸が進む。


 そうして宴はどんどん盛り上がっていき、やがていつものように皆広場の中で雑魚寝をする。

 これが今回の戦いで得ることが出来た光景だ。今までの努力の末につかむことが出来た未来なのだ。

 康生は薄れていく意識の中で、そんな思いをかみしめながら、上代琉生の言っていたことを思い出した。


(これから。これからはもっともっと出来ることを精一杯やなければ……)


 後悔するのではなく、前に進む気持ちを胸にし、康生は新たな決意を掲げたのだった。

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