第229話 宴会
「あっ!康生!もう体は大丈夫なの?」
「う、うん。なんとか」
結局あの後、病室に一人残った康生は、少しなら体が動かせる程度に回復したので、広場へと足を進めた。
広場は異世界人達を歓迎した時と同じように飾り付けなどがされており、異世界人も人も同じ机で会話を盛り上げていた。
「くれぐれも無理だけはしないようにな」
康生に気づいた時雨さんもすぐに近くに来て康生の心配をする。
「だ、大丈夫ですって」
元々こういう場でも、あまり騒ぐ方ではないので、康生は適当に隅に座り食事をしようとする。
「さぁさぁ皆ご注目!英雄様の登場ですよっ!」
そんな考えを持っていた康生だったが、広場に到着するや否や、上代琉生に見つかってしまう。
普通ならこういう場面では見かけないはずの上代琉生だったが、何故が今回は参加しているので驚いた。
そして同時に、上代琉生の言葉で広場に集まっていた者達全員の視線が康生へと集まる。
「おぉっ!英雄様が来たぞっ!」
「おらおらっ!皆すぐに英雄様に料理を運べっ!」
「すぐに英雄様の机を準備しろっ!」
上代琉生の言葉により、人間も異世界人も一様に康生をもてなすべき準備をし始めた。
「ちょ、ちょっと大丈夫ですからっ!」
楽しそうに話していた場面に、急に割り込んでしまったみたいで、康生は忍びない気持ちになる。
「まぁ、英雄様なんだからこれも仕方ないと思ってくださいね」
恐らく、というかきっと、上代琉生はそんな康生を楽しそうに見つめていた。
すぐさま文句を言いにいこうとしたが、皆に捕まってしまって身動きがとれなかった。
「ほら、座れ」
そんな中、背後から声が聞こえ、同時に肩に手を当てられ近くにあって椅子に無理矢理座らせれた。
「お前は魔力切れで倒れたんだ。本来なら今日一日は安静しておかないといけなんだが、まぁ座っていればいいだろう」
後ろを振り返るとそこにはいつの間にか翼の女が立っていた。
「あ、ありがとうございます」
「別に、気にするなっ」
そう言って翼の女はその場を去ってしまった。
「おいおい、英雄様。あの噂は本当なのか?」
「え?噂?」
去っていく翼の女を見ていると、急に横から何人かの異世界人がやってきた。
「ほら。リナさんに魔力供給をしてもらったっていう……」
「リナ……さん?」
一体誰のことを言っているのだろうと、康生はしばらく考えていると、
「ほらリナさんだよ。俺達の指揮官のっ」
「あぁっ」
指揮官。という単語を聞いて康生は思い出す。そういえば翼の女の名前をいまだに聞いていなかったことに少し申し訳ないような気がした。
「それでどうなんだよ?本当に魔力供給してもらったのか?」
「い、一応……」
あの時、リナさんに魔力供給――つまりキスをしてもらった場面を思いだして少し顔を赤らめながらも正直に答える。
「やっぱり本当だったのか!あのリナさんが男に魔力供給するなんてっ!」
「あぁ!これはとんでもないことだぞっ!」
とんでもないこと?一体それは……?
「いや〜。よかったな英雄様!俺たち異世界人の中で、魔力供給をするというのは、すなわち相手を絶対的に信頼している証拠なんだ。つまり英雄様はあのリナさんに信頼されているっていうことなんだよっ」
その言葉を聞いて、康生は思わず顔が赤くなる。
「こ、こらっ!お前達何を話しているっ!」
「やべっ!リナさんに気づかれちまった!」
そうして異世界人達は逃げるようにその場を去っていった。
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