第228話 本末転倒

「――納得いってない。そんな表情ですね」

 ベッドの中で座っている康生を見て、上代琉生は静かにつぶやいた。

「納得……というのとは少し違う。ただ、俺は自分の無力さを後悔しているだけだ」

 上代琉生に言われて、康生は咄嗟に言い返す。

「確かに皆のおかげで戦いを終われた。勿論その中に俺がいることも分かっている。でも……、俺にもっと力があれば、皆に苦労させる必要もなかった」

 エル達がいなくなったからか、康生は素直に自分の気持ちを言葉にする。

 上代琉生はベッドの隣に立ち、それをじっと聞く。

「俺は十年間も引きこもって、一人で生き抜く力を付けてきた。なのに、結局は皆の力を借りて生き延びてしまう。だったら俺の十年間は無駄だった……」

『それは違います』

 康生が最後まで台詞を言い終わる前に、突然AIが口をはさむ。

『あの十年間がなければ、ご主人様はここまで来られることすらなかったのです。さらにいえば、今生きている保証すらないのです。なのであの十年間は無駄なものではないです』

「AIの言うとおり。その十年間がなければ英雄様はきっととっくに死んでいた。だから意味のないものじゃない」

 AIと上代琉生に言われるが、それでも康生は自分の考えを曲げようとはしない。

 自分に力があれば。自分がもっと強ければ。康生はひたすらにそんな思いを抱える。

「――確かにあの十年間がなければ俺はここにいなかった。でも、あの十年間の意味はなされていない。俺は一人でも生き抜くために十年間も頑張ってきた。なのに、俺一人の力じゃなんにも出来ないっ!」

 感情か高ぶっているせいか、康生は自らの拳を強く強く握りしめていた。

「じゃあ聞こう。一体何をしていれば英雄様は自分一人の力でこの戦いを終わらせていた?この戦いで後悔しない結果を得られた?」

 そんな康生を見て、上代琉生はおもむろに尋ねてくる。

 どうしていれば後悔しない結果を得られたのだと。

「そんなことは決まっている。一人で出来る力があれば俺は何も悔やまない。そのためには色んな武器に精通し、魔力を高め、己の肉体を鍛錬する。それだけをやり続けたら俺は、この戦いでもっと素早く勝つことが出来たはずだ」

 やっておけばよかったことを述べる康生。だが、その戦いに挑むにおいてそんなことをする時間は無かった。

 むしろ、戦いまでの時間を全力で使ってあの程度の成果出せなかった。

 そのことに康生はただただ憤りを感じる。

「だったら今からやればいいだろ」

「え?」

 だが上代琉生はそんな康生に向かって気さくに語りかける。

「そんなにも改善点があるなら、今から修行していけばいいこと。今の英雄様は一人で生きる力がない。だったら生きる力を得るために頑張るしかない。そしてその間は皆の力を借りて」

「皆の力を借りたらっ……」

「借りてしまったらそれは一人で生きる力がないと認めていること。そういいたいんでしょう?でもそれは違う。人間誰もが最初からすべて上手くいくはずがない。だからこそ人は日々努力し成長する。その課程で、自らの成長後と同じことをしようなんてのは本末転倒だ。だから今は自分のために、人の力を借りることを我慢しろ。悔しいなら早く成長してみせろ。俺から言えることはこれだけです」

 上代琉生はそれだけ言って病室を去ってしまった。

「我慢……か」

 病室に残された康生は一人、そっと呟いたのだった。

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