第227話 病室

「皆……」

 次々と病室に入ってきた仲間達に康生は安心したように表情を和らげる。

 自分が生きていても、もしかしたらエル達はひどい目にあっているかもしれないと、先ほどから気が気ではなかったのだ。

「えっと、俺が倒れた後のことを聞いてもいいですか?」

 エル達が康生が目覚めたことを喜んでいる中、皆が落ち着くのを見計らって康生は尋ねた。

 そうして翼の女がことの顛末を康生に語る。


「――そうですか」

 自分が倒れた後、何があったのか聞いた康生は表情を落ち込ませる。

「上代琉生。皆を救ってくれて本当にありがとう」

 そして、この戦いでの一番の功績者であろう上代琉生に康生は頭を下げる。

 だが頭を下げられた上代琉生は、目を細めて康生を見る。

「――大方、自分に力がなかったと落ち込んでるんだろ?」

「っ…………」

 まさに図星で、康生は黙ることしか出来なかった。

「そんなっ、康生は頑張ってくれたよっ!康生がいなかったらこの戦いで絶対に勝つことが出来なかったんだから!」

 そんな康生を見て、エルがすぐに声をあげる。

 だがそんなエルを見て、上代琉生はさらに口を開く。

「英雄様だけじゃない。エル。それにそこの二人もそうだ」

 上代琉生は康生だけでなく、エルや時雨さん、翼の女にもそれぞれ視線を向ける。

 その瞬間、皆一様に視線をそらし、また皆各々の反応を見ていた。

「……俺なんて全然だ。皆の力がなかったら」

「……いや、それは私の台詞だよ」

「いや、これは私の力不足だ」

「……なるほどな」

 皆一様に反省の色を示している中、翼の女だけが一人表情を変えて、どこか優しげな顔になる。

「一人でくよくよするな。皆同じぐらい自身の力を後悔し、また同じぐらい皆の力を評価していると、お前はそう言いたいんだな」

「そういうことです」

 翼の女の言葉に上代琉生は微笑みながら頷いた。

「同じくらい……?」

 康生が呟くと、皆一様にそれぞれの顔を見る。

 自分の中では皆はとても活躍してくれたにも関わらず、皆はそれぞれ表情に影が指していた。

 そしてまた一様に、皆が自分を評価していることに気づく。

「そう、ね。皆がいたからこの戦いは勝てた。当然皆の中には私もいる」

「そうだな。確かにわざわざ過ぎたことをくよくよしてはいられないな。今はせっかくの休暇中だしな」

 エルの言葉につられて、時雨さんも表情も和らげて呟いた。

「そういうことですよ。ということで、そろそろ宴の方に行きましょうか」

 皆の表情が明るくなったのを見た上代琉生は、扉をあけて皆を宴へと誘う。

「あっ、英雄様は、これからちょっと話したいことがあるので少し遅れますね」

「うん、分かった」

 そう言って、エル達は部屋から出て行き宴の会場へと向かう。

 そうして病室に取り残された康生と上代琉生は無言で見つめあう。

「――納得いってない。そんな表情ですね」

 康生の暗い表情を見て、上代琉生は静かに呟いたのだった。

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