第225話 上代琉生の休息

「…………ふぅ」

 薄暗い場所。道幅の狭いそんな所で上代琉生は一人息を吐いていた。

 ここは地下都市のさらに地下に作られた場所。ここから地上へ出ることが可能で、都長達が秘密裏にさらった女共を地上へ送る時にも使われた連絡通路だ。

 元々地下都市から追われている身だった上代琉生は、今はここをとりあえずの生活の場所として使用している。

「さて。これから忙しくなる……」

 今日の戦闘を思いだしながら上代琉生はさらに未来のことを見据えてため息を吐く。

 しかしその表情は決して疲れた表情ではなく、どこか嬉しそうな、そんな表情だった。

「――待っててくれな」

 上代琉生をそんな顔にさせているのは、彼が手に持っている一枚の写真だった。

 それは彼の行方不明になった妹の写真だった。

 この地下都市でいなくなった彼女を探して上代琉生はいろいろとしてきた。

 結果、彼女はこの地下都市でさらわれたのではなく、自らさらわれて悪を暴こうとしたことを知った時には、彼女の行方は分からなくなっていた。

 というのも、彼女はここから別の地下都市へと送られた。その地下都市とは先日康生達が行った地下都市だったので、上代琉生はそこで妹の行方について調べた。

 だが、その地下都市で妹の行方をつかむことが出来かなった。

 何故かそこで妹の情報が途絶えていた。

 一瞬、死んでしまったのかとも考えていたが、どうやらそうでもないようだった。

 どうしてそれが分かるのかといえば、単純な話、向こうの地下都市ではさらった女が死ねばそれを記録していたからだ。

 何故記録をとっていたのかといえば、どうやらあの地下都市で実験を行っていたからだった。

 女共を送る前に、実験に耐えられる適正があるかどうかを見極めるための実験のようで、妹はそこから行方をくらませていた。

 妹のことだから、どこかに逃げ延びているはずだ。だから上代琉生はこうして康生達の元へ戻ってきた。

 ここにいれば、いずれいろいろな場所をめぐるだろうと思ったからだ。そこで妹の情報を集めようと上代琉生は考えたのだ。

「それにしても……」

 上代琉生は今日の戦場で見た、魔法を使った女性を思い出す。

 実験の内容を知っていた上代琉生だったが、まさか完成しているとは思っていなかったようだ。

 だが、敵の中ではあれはまだ完成ではないようだ。

 あれは初期段階で、さらに上の段階があるらしい。

 どうやらそこまでの情報を手に入れることは出来なかったが、やばいことだということは薄々感じている。

「早く行動を移さないといけないが……今日だけは命令通りにちゃんと休むとしようか……」

 そうして上代琉生もまた、エルの言いつけ通りに休息をとることにし、何もすることが思いつかなかったのか、街へと駆り出て行った。

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