第223話 翼の女の休息

「はぁ……」

 暗い部屋で一人、ベッドの上に横たわっている翼の女がため息を吐く。

 エルに最低でも今日一日は休息をとるように言われたので、渋々自室のベッドに潜った翼の女だったが、やることがなく、ただただ今回の戦闘のことを思いだしため息を吐くだけだった。

(今回の戦い。私は何が出来ただろうか。武力では康生に負け、知力では上代琉生に負けた。以前は侮っていた人間達の、それも子供二人に)

 そう。翼の女は今、ひどい自責の念にかられて、一人ベッドの上で天井を仰いでいた。

 異世界人達をまとめる一人の指揮官として――人間達の世界では恐らく隊長のような立場――それなのに翼の女は何も役に立つことが出来なかったとただただ自分を責める。

(――これではダメだな)

 エルに休めと言われて、こうしてベッドの上で寝ているのだが、翼の女は一向に休むことはせず、それどころかこれから先のことばかりに思考が働いてしまう。

(しかし、お嬢様も変わったな……)

 翼の女が知っている以前のエルの姿と今現在のエルとの姿を比べる。

 翼の女が知っていたエルは、部屋に籠もり誰とも話さなかったような人だった。それなのにこうして人間の世界に来てエルがたくさんの笑顔を見せ、たくさんの人と関わっている姿を見て翼の女は少しだけ感動していた。

(これもすべてあの少年のおかげか……)

 今更ながらに翼の女は康生との出会いを思い出す。

 あの時は、翼の女にとっては康生は敵でしかなく。ただ命を奪おうとした存在だった。

 それなのに、康生は翼の女を殺すことはせずにエルと共に逃げ、そうしてこの町にたどり着き、エルを強くしてくれた。

「ありがとう。……と、ちゃんとお礼を言うべきなのかもな」

 決して本人の前では言わないだろうが、翼の女は真っ暗な天井に向かって一人呟く。

(そういえば康生は今何をしているだろうか?)

 ふと、翼の女は戦場で倒れた康生のことを思い出す。

 あと一歩で剣の男を倒せただろう康生は、あの時その一歩で倒れてしまった。

 あれは異世界人だからこそ分かっただろうが、魔力切れによるものだった。

 翼の女はそれこそ自身のすべての魔力をあげる勢いで康生に魔力を渡した。

 実際あの場面で翼の女は少し動くことでも精一杯だったのだ。

 だがそれだけの魔力を渡してもなお、たったあれだけの時間しか康生は活動することが出来なかった。

(あれがもし完全な形になったら……)

 末恐ろしい未来を想像した翼の女はその瞬間に、身震いを起こしたのだった。

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