第222話 時雨の休息

「……今回の戦いは大変だったな」

 誰も殺さぬよう気を付け、全都市直属の隊長とも戦った。

 そしてなによりエルの願いが達成されたことに時雨さんは大きな充実感を感じていた。

 そんな時雨さんが現在いるのは、自身の部屋だ。

 部屋の中には可愛い人形が溢れかえっており、ベッドの上には時雨さんの特にお気に入りの可愛い人形が飾ってあった。

「あぁ〜っ!疲れた〜っ!」

 今日は家に誰もいない。ここで暮らしていたエルも今はどこかに言っているので、時雨さんは久しぶりに大声をあげ、今まで我慢してきたことを行う。

 そう。つまりベッドに上にダイブし、人形達に埋もれることだ。

「はぁ〜疲れたよ〜っ!」

 ごろごろと転がり、色んな人形達をとっかえひっかえしながら時雨さんは幸せそうな表情を浮かべている。


 忘れている人がいるかもしれないが、時雨さんは乙女な趣味がある。

 可愛いものに目がなく、隠れて集めていくうちにこうして部屋全体にまで及ぶほど大量のグッズを集めてきたのだ。

 以来、時雨さんは部屋に誰にも入れずに隠し通してきたのだが、ある時康生にそれがバレてしまう。

 康生に口止めすることでこうして秘密は守られたわけだが、以来時雨さんはより一層秘密を隠そうとしたせいで、至福の時間が減ってしまった。

 だからこうして今。休息をもらった時雨さんは真っ先に自分の部屋に来たというわけだ。


「そういえば最近康生に頭をなでてもらってなかったな……」

 人形達に埋もれながら時雨さんは表情を曇らせた。

(それになんだ、エル達とばっかりいて。もう少し私と仲良くしてくれてもいいじゃないかっ!)

 しかし時雨さんの中でだんだん怒りが沸いてきて、思わず近くにいた人形を投げようとする。

「あっ」

 だが寸前の所で気づき、慌てて人形を抱きしめた。

「ごめんね〜。君は悪くないんだよ〜」

 投げようとした人形を抱きしめながら時雨さんは甘い声で呟く。

 だがそんな幸せな表情はすぐに終わり、時雨さんは再びため息を吐いてしまう。

「――康生は今頃どうしているだろうな」

 戦場で倒れてしまった康生のことを思いだし、時雨さんは一人ベッドの上で心配するのだった。

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