第220話 五月蝿い

「こんな辺境の地下都市に戦いに来て、生還したのは隊長あなただけ。もしそうなればあなたの立場はどうなるでしょうね?」

 確実に、上代琉生は剣の男が逃げ出しやすいように追いつめていく。

 それはまるで獲物を追いつめる獣のようであった。

「――なるほど、私を相手に交渉をしようと」

「交渉?何を勘違いしているんですか?」

 だが上代琉生は笑って答える。

「これはあなたがただ選ぶだけだ。あちらに帰って死ぬか、帰って生きるか」

「くっ……」

 明らかに康生達の命が危ない状況。本来ならば絶対的な強者を誇れるだろう剣の男だったが、上代琉生が提示する条件のせいで、一瞬のうちに死地に追いやられてしまった。

 その様子を見ていた時雨さんも、上代琉生に門を言うことはやめ、静かに動向を見守っている。

「――そろそろ決着はついたか?」

 とそんな時、テントの中から一人の女性が出てきた。

「なっ!こ、これは一体っ!?」

 その女性は外の状況を見るなり、大声をあげて目を見開かせた。

 当然だ。絶対敵な強さを誇る隊長達が四人もやれている。それなのに康生達の陣営は康生以外全員立っている。

 そんな光景を見た女性――都長は驚愕の表情と共に剣の男に駆け寄る。

「おいっ!これは一体どういうことだっ!お前達とあろうものがこんな失態をさらしてっ――」

 剣に男の元に行くなりに、大声をあげて怒鳴る都長だったが、剣の男に人にらみされただけで瞬時に黙ってしまう。

「さぁ?どうする?」

 上代琉生も都長の存在を完全に無視し、剣の男に語りかける。

 あたかももう考えている時間がないように思わせるように。

「――分かった。ここは引こう。その代わり我々の兵とそこの隊長達を連れて帰らせてもらう」

「あぁ、いいだろう」

 そうして、康生達の戦いは静かに幕を閉じる。

「……あいつ中々やるな」

 この結果を導き出した上代琉生を見て、翼の女は小さく声を漏らす。

 この状況、捨て身の覚悟で、剣の男と戦う考えしかできなかった翼の女は、自らの考えを悔いつつも、上代琉生という男の存在について認識を改めるのだった。

「――な、何を言っているんだっ!戦いはまだ終わってないっ!」

 だがしかし、唯一状況を全く知らない都長だけが、その結果に異議を唱えた。

「この程度ぐらいお前一人でもやれるだろうがっ!それなのに四人も倒れおって!お前達の力はその程度なのかっ!」

 まるで戦えと煽るように、都長はののしりながらも言葉を吐き捨てる。

 だが都長の言葉は剣の男に耳には入っていないようで、その横を素通りされる。

「くっ!」

 あまりにもな態度に都長は怒りを露わにして、思わず剣の男に向かってその拳を振り上げた。

 だがその瞬間、

「五月蠅い」

 剣の男の一振りで、都長の体は地面へと倒れ込んだ。

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