第219話 動揺の色
剣の男まであと一歩。あと一歩踏み出せば拳が当たり、剣の男も他の隊長達と同じように吹き飛ばすことが出来た。
だがそのたった一歩分のエネルギーが康生の中からなくなっていく。
「ぐっ……」
足から力が抜けた康生は反射的に地面に倒れ込む。
ろくに手も動かせないので、康生は顔面から直接地面にぶつかる。
「康生っ!」
そんな康生を見てエルが思わずかけよろうとする。
だがすぐにエルを翼の女が止め、代わりに時雨さんと上代琉生が駆け寄る。
「康生っ!しっかりしろっ!」
時雨さんが康生に掛けより、上代琉生が代わりに剣の男の前に立ちふさがる。
「――ふっ。ふははははっ!」
が、剣の男は上代琉生を見るわけでもなく地面に倒れ込んだ康生を見て大声をあげて笑う。
「やはり所詮は子供だっ!あんな力を出したのだから当然その反動は己の死なのだろうっ!」
「康生は死んでないっ!」
剣の男の言葉に咄嗟にエルは否定する。
しかし、時雨さんがいくら声をかけても康生が起きあがることがないところを見ると、どうやら剣の男が言っていることはあながち間違いではないように思える。
「――それで。これからどうするんだよ?」
だが唯一、上代琉生だけが冷静に状況を判断し、その上で剣の男を睨みつけた。
「どうする?そんなもの決まっている!貴様等を殺す。それだけだっ!」
もう康生という敵がいなくなったので、剣の男は不気味な笑みを浮かべて答える。
それもそうだ。残りは隊長一人でも苦戦した時雨さんと翼の女。剣の男の中ではそれほど大した戦闘力ではないと思われている上代琉生。戦える者がこれしかない状況で、剣の男は殺すという選択肢をとるのは必然だろう。
「――お前達の兵士を全員殺すといったらどうする?」
だが上代琉生は決して屈することはなかった。
「殺す?何を言っているのだ?お前達は敵を殺さない。それは今回の戦いですでに証明されている」
剣の男はあくまで余裕の態度で答える。
「それはこいつらだけだ。俺は違う」
「何?」
「俺はこいつらの仲間ではない。あくまで一時的に協力しているだけだ」
「だから兵士皆を殺すと?」
笑みを浮かべていた剣の男だったが、やがてそれはだんだんと薄れて真剣な表情になっていく。
どうやら上代琉生の言葉に心が動かされたようだ。
「あぁ。俺は自分の命を助けるためならなんだってやる。その為の準備もこいつらに知られぬよう秘密裏にやっておいた」
「どういうことだっ!」
近くで話を聞いていた時雨さんは声をあげて話を遮りるが、上代琉生はそれを手を出して止まるようにいう。
「こんな辺境の地下都市に戦いに来て、生還したのは隊長あなただけ。もしそうなればあなたの立場はどうなるでしょうね?」
動揺の色を見せた剣の男に対して、上代琉生はいつもの変わらぬ表情で語りかけたのだった。
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