引き篭もって10年間〜外に出たら世界が滅んでいました〜

第218話 瞬時に

「『解放』っ！」

　康生は勢いよく叫ぶ。

　その瞬間、康生が纏っていた装備から光が漏れる。

　しかしそれは隊長達が纏っている光とは違うことから、武装解除とは違う別のものだということがいえる。

「はっ！」

　そんな康生の変化に驚き、動きがわずかながらに止まっていた槍の男に向かって康生はその拳を突き上げた。

「が、はっ！」

　瞬間、槍の男は吹き飛ばされる。

　その勢いはまさに車のスピードと同等だ。だが重さのさせいで徐々に体が沈んでいき、地面へとめり込む。

「……確かにその力はすごい。だが隙を見せすぎじゃないかなっ！」

　槍の男が吹き飛ばされたことに一切動揺せずに剣の男は拳をあげたままの康生に向かって斬りかかる。

　咄嗟にそれに反応していた康生だったが、すぐに背後の気配に気づく。

「そいつばかり気にしちゃだめだぜ？」

　いつの間にか背後にまで来ていた鞭の男が瞬時に康生の体を巻き付ける。

　戦闘中に分かったことだが、その鞭は当然のように鋼鉄のような強度だった。

　剣の男の攻撃が届くわずかな間に抜け出せないほどの強度がその鞭にはあった。

　だが、今の康生にはそんなものはただの糸と変わりなかった。

「はっ！」

　巻き付けられた鞭に対し康生は体に力を入れる。

「なっ、なっ！！」

　わずかその一瞬で康生は鞭を粉々に砕いてしまう。

　鞭が壊れることがよほど予想外だったのか、鞭の男は驚愕のあまりその場で立ち止まっていた。

「逃げろっ！」

　攻撃をやめた剣の男が、すぐに鞭の男に声をかける。

　だが、今の康生は当然そんな隙を見逃すわけもなく拳を振り上げた。

「がはっ！」

　そうして鞭の男も槍の男と同じように飛ばされてしまう。

「なるほどっ、なかなかにやっかいだなっ！」

　剣の男は一端体勢を立て直すために距離を取ろうとする。

　その際に銃の男に指示を出し、わずかだけ時間を稼ぐように言った。

　恐らく武装解除をしているからか、強度も弾の連射速度も最初とはけた違いだった。

　しかしその弾は康生に触れるどころか、触れる寸前に弾き飛ばされてしまう。

　その光景に怖じ気ながらも銃の男はひたすらに弾を打ちまくる。

「邪魔っ」

　いい加減鬱陶しく思ったのか、康生は剣の男よりも先に銃の男へ向かって走る。

　否、走るというよりかはそこへ出現する。と言ってしまえるほど、康生のスピードは常人場慣れしていた。

　そうして例にもれず銃の男の吹き飛ばされてしまう。

「くそっ！なんなんだ君のその力はっ！」

　味方が全員やられ、康生の圧倒的な力を目の当たりにした剣の男は初めてその表情に恐怖の色を宿す。

「……時間がない」

　だが康生はそんな剣の男に返事を返すわけでもなく、一言呟き瞬時に剣の男の前まで移動する。

「く、くそっ！」

　無駄な抵抗とばかりに剣の男は、その武器を振り回す。

　そんな状態では当然康生に当たるわけがなく、剣の男は他の者達と同じように…………殴られなかった。

「な、なんだ？」

　一向に攻撃をされないことを不審に思った剣の男は恐る恐る目をあける。

「康生っ！」

　その瞬間、エルは悲鳴をあげた。

　何故ならば、剣の男の目の前で康生が倒れていたのだから。