第217話 全力

「許せない?これも人類が異世界人に勝つためだ。いわば必要な犠牲というものだよ」

 康生の怒りをあざ笑うように剣の男が言う。

 そうしてさらに康生の怒りに油が注がれる中、隊長達はそれぞれの位置につき皆武装解除を行う。

「先ほどまでは全力ではなかったが、もうこれ以上は手加減はしない。君も覚悟して戦いたまえ」

「それはこっちの台詞ですよっ!」

 その言葉が合図とばかりに康生は隊長達に向かって飛びかかった。

「また袋叩きにされたいのかっ!」

 無策につっこんでくる康生を見て、槍の男は笑いながら攻撃を繰り出す。

 槍の男に混じり剣の男も続いて攻撃を仕掛けてくる。

 これまでは先ほどの戦いとなんら代わりはない。

 しかし康生はここでようやく知る。剣の男が行っていた手加減はしないという意味が。

「ぐっ!」

 康生は飛んでくる銃の弾、そして足下を狙うようにくる鞭の攻撃を寸前のところで避ける。

 先ほどまでは邪魔をする程度の遠距離からの攻撃だったのだが、今は邪魔どころではなく本気で攻撃を仕掛けてきていた。

「そんなことをすれば一緒に食らってしまうのでは?」

 明らかに激しくなった攻撃に対して、康生は剣の男に尋ねる。

「ふっ!だから本気で行くといった。俺達はよく手合わせをしてな。あいつらの攻撃を避けることなんてのは出来ないことじゃないんだよっ!」

「ぐっ!」

 康生は咄嗟の剣の男の攻撃をすぐに防ぎ、続いて第二、第三の攻撃をぎりぎりのところで回避しながらすぐに体勢を立て直す。

 つまりは今までは近距離に集中するようにしていたが、今回からは遠距離も本格的に攻撃に参加してくるということだ。

 しかも剣の男も槍の男も言っていた通りに、完全に攻撃を避けきっていた。

 攻撃を向けられているのは康生なのに、それを二人は完璧に回避する。

「くっ……」

 確かに明らかに違う攻撃の仕方に康生は苦しげな表情を浮かべる。

「ふっ!流石の君もこれは苦しいようだなっ!」

 自らも攻撃を避けながら剣の男は、それでも攻撃の手を弱めるどころかむしろより強く攻撃を繰り出してくる。

(これはやられる……)

 その攻撃に康生は思わず思う。

(――だがそれは先ほどまでのこと。今ならばっ!)

 そう。今の康生は魔力も十分にあるのだ。

 この戦いのために準備してきた康生が負けるはずがない。

「この勝負勝たせてもらいますよっ」

「やれるものならやってみろっ!!」

 康生の言動に槍の男が強い攻撃を仕掛けてくる。

 しかしそれは勢い余っての攻撃ではなく、冷静に考えての攻撃。

 当然、斧の男のように隙を狙えるわけではない。

 だが康生はそのわずか一瞬の隙。

 強い攻撃を仕掛けるために、他の隊長達がわずかに攻撃を緩めたその瞬間を狙った康生は発動させる。

「『解放』っ!」

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