第216話 許さない
「皆ありがとう……」
魔力も体力も傷も回復した康生は勢いよく立ち上がる。
そして、自分の為にここまでしてくれた皆に感謝する。
「ううん。礼を言うのはこっちだよ。――ここまで戦ってくれてありがとう」
だが、反対にエルにお礼を言われたので康生は少し戸惑う。
「――もういいかな?」
が、そんな時に剣の男が遮ってきた。
どうやら向こうも完全に回復が終わったようだった。
「ん?」
だがそこで隊長達の姿を見て、上代琉生が不思議な声をあげた。
「――武装機械のエネルギーを補充した……だけじゃないな。傷までも治ってる」
そう。上代琉生の言うとおり、隊長達の傷は完全に回復していた。
一番康生のダメージを食らっていた槍の男でささえ、その姿は最初出会った時と同じだった。
「人間にそんなことは出来ない……。となると、お前ら魔法を使ったな?」
「魔法を使った?」
上代琉生の言葉に、康生は思わず心の声を出してしまう。
何故ならば、隊長達はあれだけ異世界人達を嫌っていた。
それなのに、異世界人達が使う魔法を使ったということは、自身が異世界人か……それとも異世界人の仲間がいるとし考えられないからだ。
「そちらも魔法を使ったんだ。だったらこちらも使っても何も文句はないだろう?」
剣の男はあっさりと事実を認めてしまった。
「どういうことだっ!貴様ら人間が魔法を使えるわけがっ!」
当然のように翼の女が食いかかる。
しかしそれでも隊長は表情を変えることなく横にづれた。
一体何をしているのかと思って見れば、隊長達の背後にはいつの間にか一人の女性が立っていた。
「魔法は異世界人だけの特権だと思ったか?だが違う。我々人間だって魔法が使えるんだよ」
剣の男が説明すると、自身の剣で腕を傷つける。
わずかに斬れた腕からは血が滴る。
「『ヒール』」
そして次の瞬間、衝撃的な光景を目の当たりにした。
隊長達の後に立っていた女性が、剣の男の腕を回復させたのだ。
あれは明らかに魔法だった。
そしてそれは康生達に驚愕の表情を浮かべさせた。
「――なるほどそういうことか」
だが、康生達の中で唯一、上代琉生だけが、わずかながら表情を動かしただけで、あとはいつもの通りの調子に戻る。
そして上代琉生はさらに衝撃的なカミングアウトをする。
「つまりさらった女共を使って、魔法を使わせる実験をしてたってわけか」
上代琉生の言葉に康生達は当然のように驚愕の表情を浮かべる。だがそれと同じように、隊長達の間にもわずかな動揺が走った。
「……貴様がどうしてそれを知っている?」
「まぁ、個人的に気になったからちょっと調べてただけさ」
上代琉生はいつも調子で答える。
そんな中、康生は女性へと目を移す。女性は明らかに普通とは違う様子をしていた。虚ろな目を浮かべ、言葉も話さなければ表情すら変えない。
それが人体実験としての結果だとすれば、康生の怒りは燃え上がる。
「俺はお前達を許さない」
そうして康生は拳を構え、隊長達との戦いを始めようとした。
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