第215話 ずるい
「っ!」
最初、翼の女に何をされたのか分からなかった康生だったが、次第にキスをされたのだと気づいた康生はすぐに逃げようとします。
しかし、
「んっ」
翼の女はそんな康生を逃がさないように、がっしりと体を抑えます。
まるで翼の女が康生を襲っているようにも見えますが……これにはやはり訳があるのです。
そう。魔力が不足している康生のために翼の女が魔力を供給しているのです。
当然、康生もすぐにそのことに気づいたのですが、それでも恥ずかしさの方が勝ったのか、やはり翼の女にキスされながらじたばたしています。
「こ、これは何をしているのだ……?」
そこで状況を理解していない時雨さんがエルに尋ねました。
「……魔力の受け渡しをしているの」
「魔力の受け渡し?」
「…………そう」
心なしかエルの気持ちが沈んでいるが、時雨さんはそれに気づかずにひたすら康生を見ていました。
エルの説明のおかげで、正当な理由があることを知った時雨さんは、すぐに止めることをやめましたが、それでも時雨さんの気持ちはざわざわと激しい川のような揺れ動いているのでした。
「魔力の受け渡し、なるほどねっ」
そしてそんな光景を唯一、一人だけ笑って眺めているのは上代琉生だけでした。
「ぷはっ」
そうしてしばらくすると翼の女がようやく康生を解放しました。
「はぁ、はぁ……」
長いこと唇を重ねていたこともあり、康生は少し酸欠気味にまでなっていました。
しかし翼の女はまるで顔を隠すように、康生から顔を背けています。
「……今のは魔力を渡しただけだからな。変な誤解はするなよっ」
「は、はい……」
顔色の見えない翼の女の言葉を聞いて、康生も動揺に恥ずかしくなったのか、顔を背けます。
「…………」
そうしてその場になんともいえない空気が流れたのでした。
「もうっ」
しかしその空気をすぐに打ち破ったのはエルでした。
「まだヒール終わってないんだから、すぐにヒールするからねっ!」
そう言ってエルは康生を抱き寄せました。
「ちょ、ちょっとエルっ!」
「ほらじっとしてて!じゃないとヒール出来ないからっ!」
一体どうしたのか、先ほどまでは横になっているだけでよかったヒールでしたが、どうしていきなり抱きついてきたのか康生は分からず困惑していました。
そしていつもはそれを止めるであろう翼の女も、今は顔を背けているので何も言ってきません。
「…………ずるいぞ」
そんな中、一人だけ何も出来ていない時雨さんは小さく呟いたのでした。
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