第214話 勝つため
「なるほど回復魔法ですか」
エルが康生に回復させるのを剣の男は黙って見ていた。
「あれ?攻撃してこないんですか?」
そんな剣の男を見て、上代琉生はわざと挑発するように言う。
「ふっ、どうせ今攻撃したって無駄に体力を使うだけだ。君たちを殺しても、後で完全に回復した少年にやられてしまうだけだからね」
隊長達もどうやら相当体力を使ったらしく、わずかな時間でさえも体力を回復させようとしているようだ。
当然時雨さん達も、敵が体力を回復させようとしていることは分かっているので、いくらでも攻撃しようと思えば攻撃できる。
が、たとえ今攻撃をしてもどうせやられてしまうだけ。
最悪死に至ってしまう。
だからこそお互い無駄な体力を使わないためにも、わずかな時間だけ停戦しているのだ。
「その間に我々も武装解除のエネルギーを補充させてもらうがね」
時雨さん達が攻撃してこないことを確認した剣の男は、隊長達を集めてそれぞれの鎧に何か細長い筒状の物を差し込んでいた。
どうやらあれで、武装解除のエネルギーを補充できるようだった。
「エル、まだか」
相手が武装解除のためのエネルギーを補充していると分かった時雨さんは、少し焦りながら振り返る。
「も、もうちょっと」
隊長達があれほどまでに消耗しているのだ。当然一人でその相手をしてきた康生の消耗は相当なものだった。
エルが現在回復をしているが、ここまで戦ってこれたのはもはや奇跡に近いものだとエルは感じていた。
「勝算の方はどのぐらいですかね」
隊長達が補充している間、上代琉生は康生の元へと近づき、こっそり耳打ちしてくる。
「――もし、このまま回復しても敵が武装解除をフルで使ってきたら厳しい……。せめて解放が使えれば……」
「解放?それは一体なんなんだ?」
エルの横に立っていた翼の女が、康生の口から聞き慣れない言葉が出てきたので思わず尋ねる。
「簡単にいったら武装解除より強力なものです。でもこれは本来の武装解除のエネルギーと魔力が必要なんです。武装解除のエネルギーはまだ余裕はありますけど、魔力の方がほぼ空っぽ状態で……」
と皆に向けて康生は説明する。
あれだけ戦っておいて、武装解除のエネルギーがあることに時雨さんは少し驚いていたようだったが、康生が作った特殊なものだと無理矢理納得した。
そしてその隣では翼の女が何かを考え込むように目をつぶっていた。
「――あとは魔力さえあればあいつ等に勝てるんだな?」
「はい。解放を使えば間違いなく勝てると思います」
「分かった」
「え?」
康生の言葉に頷いた翼の女は突然、その場にしゃがみ顔を近づけてきた。
「い、一体なにを……?」
あまりにも近い顔に康生は若干照れつつも、背後に下がろうとする。
「逃げるな」
「は、はいっ」
しかしすぐに抑制されてしまい、仕方がなくじっと待つ。
「いいか、これは勝つためにやることだ」
「は、はい……」
目と鼻の先にまで近づいた顔は、両者とも少し赤く染まっていた。
そうして翼の女が何かを決心するように目を閉じて……、
「んっ」
そっと唇を重ねたのだった。
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