第212話 ここまでか

「ま、まだ出来ますよ……」

 剣の男に笑われた康生は、必死に立ち上がる。

 しかし言葉と様子が合っておらず、ますます大丈夫ではないことを知らせるだけだった。

 実際、康生の体はすでに限界まで来ていた。

 隊長達との連戦は当然、体の負担は大きい。

 それこそ、あれほどのスピードの攻撃を避け続けていたのだから、身体的にも精神的にも厳しいはずだ。

 だが康生はそれでもまだ戦おうとする。

 先ほどの力で風の力をすべて使い切り、あとは魔力だけになってしまった。

 それでも康生は必死に戦う姿勢をとる。

「――まぁ、いい。それではもう終わりにしましょうか」

 もう康生に戦う力が残っていないと確信し、剣の男は康生に切っ先を向ける。

「では、覚悟っ!」

 もう武装解除の効力が消えたのか、そのスピードはそれまでのものと比べ少しだけ遅かった。

 それが康生がここまで堪え忍んできた結果だ。

 康生以外にも、隊長達も明らかに体力を消耗している。

 その事実を知れただけでも康生はさらに闘志を燃やすことが出来た。

「だからまだ大丈夫ですって!」

 向かってくる剣めがけてグローブを突きつける。

「『雷鳴腕(ボルティック)』!」

「くそっ!まだ魔力をっ!」

 流石の剣の男も、康生が魔法を使える力を残しているとは思っていなかったようだ。

 しかしそれでも康生の魔力は微量なもので、魔法の威力は数段以上落ちている。

 だからこそ、剣の男はひるむことなくその剣を振り下ろした。


 バチバチッ!


 瞬間、剣に伝えられた電気が剣の男を襲う。

「ぐっ!」

 電気が伝わり、剣の男は悲鳴をあげる。


 バキッ。


「くっ!」

 しかし攻撃を食らっているのは康生も同じで、剣とぶつかっているグローブから嫌な音が響き始める。

「今だっ!」

 そんな中、剣の男は康生を切りつけながら背後にいる隊長達を声を掛ける。

「任せろっ!」

 槍の男がまず走り、そして背後にいる鎖と銃の男が瞬時に攻撃態勢をとる。

(不味い……)

 今攻撃をされれば、確実に避けることが出来ない康生はひたすらに力を振り絞ろうとする。

 しかし力を入れれば入れるほど、逆に康生の体から出ていっているような感覚に襲われ、康生はまともに動くことすら出来なかった。

「食らえっ!!」

 全く動けない康生めがけて、槍の男がその槍を突き刺そうとする。

「『大地の……』」

 瞬時に土の鎧を展開しようとした康生だったが、魔力が足りないのか、力が足りないのか、とにかく魔法が発動することはなかった。

「ふははっ!これで貴様も終わりだっ!」

 ついに勝ちを確信した剣の男はその腕に力を入れる。

 どうやら康生の雷はすでになくなっていたようだ。

(ここまでか……)

 そこから動くことも出来ない康生、とうとう負けを受け入れようとしていた。

 しかしそんな時、

「そうはさせないっ!」

 康生に迫っていた槍の男の攻撃は寸前の所で止められたのだった。

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