第210話 いい考え
「た、助かったのか……?
爪の男の攻撃を目の前にして、覚悟を決めていた時雨さんだったが。突然敵が地面に倒れたことにより窮地を逃れたことに驚きを隠しきれていない様子だった。
「一体何が……?」
時雨さんの下で倒れていた翼の女も、ゆっくりと体を起こしながら爪の男の様子を確認する。
しかしどこにも目立った傷はなく、本当にどうして倒れてのか全く分からずにいた。
「――危ない所でしたね」
と、そんな疑問を浮かべる二人の元に上代琉生が姿を現した。
「もしかして貴様が……?」
このタイミングで現れたことにより、爪の男を倒したのは上代琉生のおかげなのかと、翼の女は疑いを持ちながらも尋ねる。
「えぇ、一応。でも二人がここまで敵の注意を引きつけてくれなかったらこうも簡単にいきませんでしたよ」
自分が倒したのだと、はっきりと答えた上代琉生はそのままゆっくりと爪の男の元へと行く。
「大丈夫ですよ。殺しはしませんから」
ゆっくりと近づく上代琉生を見て、時雨さんは何か嫌な予感でもしたのだろう、すぐさま止めようと動こうとしたが、それはすでに上代琉生に読まれていることだった。
「とりあえずいつ目が覚めるか分からないんで、鎧を脱がせて拘束しておくだけですよ」
といいながら上代琉生は慣れた手つきで鎧を剥ぎ、そして両手両足を拘束していく。
「――お前は一体何をしたんだ?」
拘束が終わる頃、少しだけ回復した翼の女は上代琉生の前に立った。
「簡単なことですよ」
そんな翼の女の問いかけに、上代琉生は一つのペンを取り出した。
「それはっ!」
それを見た瞬間、翼の女は何を思い出すように声に出して叫んだ。
そしてしばらくペンを眺めていた時雨さんは、ようやく何か分かったようで、恐る恐る口に出す。
「それは……康生が持っていたペンだな?」
「えぇ、そうです。あのドラゴンにも効いた眠り薬がたっぷり塗ってあります」
そう。それは康生がドラゴンと戦った時、康生が最後に使ったものだった。
それをどうして上代琉生が持っているのかは、気になるが、二人はそれよりも今の戦いについて頭を回す。
「――よし。それじゃあ私は引き続き康生の加勢に行ってこよう。時雨、後は頼んだぞ」
「だ、だか……」
敵を倒したことにより、翼の女は再び康生の元へと行こうとする。
しかし翼の女は、この戦いで相当にダメージを負ってしまっている。
この状態では、戦うどころかロクに飛べるのかもすら怪しい状態だった。
当然、時雨さんはそんな翼の女を止めようと手を伸ばす。
「あっ、その件については俺にいい考えがあります」
飛び立とうとする翼の女を止めるように、上代琉生が口を挟んだのだった。
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