第208話 確信
「お?どうした逃げるのか?」
敵から離れる翼の女を見て、爪の男は分かりやすいように煽ってくる。
だが翼の女はそれに答えることもなく、ただ静かに熟考する。
時雨さんもそんな翼の女を見て、邪魔をしないように口を閉じた。
「けっ、なんだよ無視かよ。だったら無理矢理にでも話させてやるぜっ!」
一定位置から移動しなかった爪の男がとうとう動きだした。
敵が動いたことで、敵の周りの風はなくなったのだと思い、すぐさま時雨さんは攻撃に移る。
しかし、
「待てっ!」
寸前の所で翼の女に止められる。
どうしたのかと、思わず振り返ろうとしたその瞬間、
「だからお前は甘いって言ってるんだよっ」
時雨さんがつきだした長刀の先端が、爪の男に近づくと、その瞬間強い衝撃が加わり、思わず武器を落としそうになった。
「やはり、移動中もそれは継続か……」
「ご明察」
最初は自身のガードを維持するために動かなかったと見ていた時雨さんだったが、どうやら敵が動いても、風の刃は継続中のようだった。
それではこちら近づくことは出来ず、ただ距離を取ることしか出来ない。
その上、敵は遠距離から攻撃も仕掛けられるため、まさに戦いようがなかった。
「ほらほらっ!逃げれるものなら逃げてみろよっ!」
そんな時雨さんを爪の男はただただ追い回す。
時折、風の刃を飛ばしながら着実に時雨さんを追いつめていく。
「くそっ!こうなったら私も…………いや、武装解除はまだだっ」
敵の攻撃に耐えかね、咄嗟に武装解除をしようとした時雨さんだったが寸前の所でやめる。
何故ならば、今武装解除をしても敵を倒せる可能性は全くないのだから。
容易に近づけない敵に、いくら身体能力をあげても対処のしようがない。
だから時雨さんは翼の女が作戦を考えつくまで徹底的に堪え忍ぶことを決意する。
「ほらほらっ!どんどん逃げろよっ!」
しかしそんな悠長な時間は敵は待ってくるはずもない。
いい加減追いかけるのは飽きたのか、着実に時雨さんとの距離を縮めてきている。
「俺の範囲に入れば、お前はもう終わりだ。とっと楽になろうぜ?」
「そんなものは御免だっ!」
言葉を返すように、時雨さんは迫ってくる風の刃をガードする。
しかしその瞬間、
「ガードする瞬間ってのは相手にとって大いに隙になるんだぜ?」
まるで時雨さんがガードするのを待っていたかのように、爪の男は一気に間を詰めてきた。
「ぐっ」
咄嗟の出来事に戸惑いながら、すぐさま距離をとろうするが、このままではどう見ても間に合わなかった。
「これで終わりだよっ!」
抵抗しようとする時雨さんめがけて男はその鋭利な爪を振り下ろす。
「くそっ!」
あとわずかで、敵の風の刃のシールドに入ってしまう。
そんな距離に追いつめられた時雨さん。
しかしその瞬間、
「知ってたか?勝利を確信した相手ほど隙だらけのものはないんだっ!」
翼の女の声が響いたのだった。
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