第206話 光明

「私も協力するっ!」

 時雨さんと翼の女が今にも、爪の男に襲いかかろうとした時、背後からエルが魔法を唱える。

「これは?」

 エルが魔法を唱えると、二人の体は一瞬だけ淡い白の光に包まれる。

「それは身体能力を向上させる魔法。私の力じゃあまり効果はないかもだけど、私に出来るのはこれだけだから……」

 どうやらエルは、回復の魔法以外にも支援魔法が使えるようで、時雨さんは若干ながらも体が軽くなったように感じていた。

「いえ、お嬢様はまだやれることはあります。ここは私たちに任せて、お嬢様はご自身のやることをやって下さい」

 エルに支援魔法を掛けてもらった翼の女は、すぐにエルこの場から去るように言う。


 それはエルの身も心配もあり、またエルの力が必要な場所があることを指している。

「うん、分かった」

 エルは翼の女の意図を受け取ったようで、すぐに戦場の後方へと向かった。

 エルはそこで怪我をした兵士達の治療をするためだろう。

「さて、それじゃ改めて行くぞっ!」

「おっと、ようやくか」

 敵が強化をしてもらったにも関わらず、どうやら爪の男はそれを待っているように見えた。

 恐らく、敵の実力をそれだけのものと見積もっているのだろう。

 そしてそれが時雨さんと翼の女の闘志に火をつける。

「行くぞっ!」

「あぁっ!」

 翼の女のかけ声で、二人はそれぞれ左右に分かれて敵へと向かう。

 左右挟み込むことで、敵の注意を散漫させようという戦略のようだ。

 だが、

「甘いなっ」

 爪の男はその長い爪を使い、見事に二人の攻撃をいなして見せた。

 二人とも細い武器ということもあり、いとも簡単に攻撃を防がれてしまったのだ。

「じゃあ次はこっちの番だ!」

 二人の攻撃をいなした爪の男はすぐさま反撃にでる。

 攻撃が避けられた直後なので、今の二人は大きな隙が出来ている。つまり、何をされても対処しにくいということである。

「甘いぞっ!」

 時雨さんは咄嗟に退避の姿勢をとる中、翼の女はそのまま剣を握り直す。

 そして次の瞬間、

「『雷鳴(サンダー)』」

 翼の女の剣を電気が伝う。電気はそのまま剣を抜け、一直線に爪の男へとめがけていく。

「なるほど。だがまだまだっ!」

 瞬時に攻撃を見切った爪の男はすぐに体をそらす。

 どうやら電気は一直線にしか飛んでこないと考えたようだ。

 事実、爪の男が避けても電気は進路を変えることはなかった。

 しかし、

「だから甘いと言っただろうがっ!」

 翼の女はそのまま剣を振り下ろす。

 剣の切っ先には敵はいないが、どうやら剣から伸びる電気の進路を変えるためだったようだ。

 一度避けたと思っていた爪の男だったが、突然に進路を変更してくる電気に少しばかり焦ったようで、慌てて回避行動を行う。

 しかしそれも翼の女の思惑通りだった。

「時雨っ!」

「あぁ!」

 爪の男の背後で待機していた時雨さんが、雷に注意を向けている爪の男に向かって長刀を振り下ろす。

 攻撃は確かに爪の男の鎧へとヒットし、敵にダメージを与えることが出来た。

「なめるなよっ!」

 しかし攻撃が浅かったのか、時雨さんはすぐに吹き飛ばされる。

 だが勝ちへの光明が見えてきたことで、時雨さんはさらなる闘志を燃やすのだった。

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