第192話 一仕事
「逃げたとはどういうことだ!」
時は少し戻り、元都長がまだ敵と合流しておらず、康生達が上代琉生の話を聞いて戻ってきたところ。
元都長を捕まえたからと戻ってきたのに、その本人が逃げられたと聞き、翼の女は怒りを表すにする。
「大丈夫ですって安心して下さいよ」
「何が安心できるものかっ!」
いくら上代琉生がなだめようとは翼の女は怒りを納めることはない。
しかしそれも当然のこと。易々元都長を逃がしてしまったので、康生もこれは止めようにも止められない。
「――どうして逃がした?」
だが康生はそれでも冷静になり、上代琉生を問いつめる。
「どうしてって、そこから敵の本拠地を見つけるためですよ」
「何?」
康生が理由を問いただすとあっけなく上代琉生は白状した。
それも康生達が探していた敵の主力がいるところを見つめるためだと。
「一体どういうことだ?」
と怒りを表していた翼の女だったが、上代琉生の言葉を聞き少しだけ冷静になったようで、さらに言葉を続けさせようとする。
「簡単なことですよ。あの元都長には作戦書を持たせて逃走させた。一度俺達に見つかっている以上、もうここにいるのは危険だ。だから必ず敵と合流とすると思ったんです。一応保険として外部との連絡手段は全てつぶしておきましたが」
いつの間にそんなことを……と康生は感心した。
全く考えてもいなかった元都長の存在に、上代琉生は難なく対処してみせたのだ。
さらにはそこから、敵主力の場所まで見つけようとしているものだから大したものだ。
「まぁ、探す課程でAIさんに協力してもらいましたけどね」
そう言って、康生から預かっていた小型のAIを取り出した。
『ご主人様は忙しそうなので、勝手にやらせていただきました』
と耳元からはAIの声を聞こえた。
「……疑ったりしてすまなかったな」
話が一段落したところで、翼の女が上代琉生に向かって謝罪する。
今まで散々疑っていたのだ。その相手がこんなにも働いていてくれたことに対して、翼の女はとても申し訳なく思ったのだろう。
そんな謝罪だったが、上代琉生はすぐにやめさせる。
「そんなことより今は目の前の戦いです。発信器がありますので、これを追っていればいずれはたどり着きますよ」
そう言って代わりに翼の女に発信器を受信する機械を渡した。
「すまないな」
「いえいえ。その代わりさっさと終わらせて下さいね」
「あぁ、分かっているさ」
そうして無事、康生達は敵主力の位置を発見することが出来た。
全て上代琉生の手柄によって。
「……一緒にこないのか?」
そんな上代琉生に対して康生は尋ねる。
「いや、俺が行っても足手まといになるだけだよ。それにこういう時は少人数の方がいいんだろ?」
まるで康生が、単独の方が戦いやすいと言っているようなニュアンスで話す。
「まぁ、こういうのは適材適所だから。とにかく頑張ってください雄様」
そう言って上代琉生はまたどこかに姿を消してしまう。
まるで一仕事を終えてこれ以上出番はないというように――――いや、もしくは新たな仕事へ向かったのかもしれない。
そんな上代琉生を康生はただ、羨ましく思い、同時に嫉妬の心に火をつけたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます