第177話 無言で
会議が終わり、次の戦いについての作戦も決まった。
時間は昼頃だったので、皆で食材を持って講堂へと行く。
康生もエルに、目の前でごはんを食べないと駄目と言われたので、仕方なく講堂へと足を運ぶ。
康生が揃っての食事にエルも時雨さんも嬉しそうにしながら、食卓を囲んだ。
ただし唯一上代琉生だけは会議が終わるとふらっとどこかへ消えてしまったので食卓にはいない。
会議では気づかなかったが、上代琉生は康生達と出会った時、ひどく異世界人達に交戦的で嫌っているようだった事を思い出す。
でも会議には異世界人達もいたので、そこまでなのだと勝手に思い込むことにした。
「じゃあ俺は工房へ行ってきます」
食事が終わりやっと解放された康生はそのまま駆け足で工房へと向かう。
「もう体調はいいのか康生?」
工房へと向かうとする康生を時雨さんが心配そうに呼び止める。
昨日倒れたという事もあり心配なのだろう。
そして驚いた事に、時雨さんの隣で翼の女も似たように心配そうな表情を浮かべていた。
「…………あれなら魔力を渡す方法がある。もし必要ならば私が渡そう」
「えっ……!?」
思わず翼の女の発言を聞き、顔が赤くなる。
それと同時にエルとの事を思い出し、さらに顔が赤く染まる。
見ると翼の女も多少顔が赤くなっているようだった。
「ん?どうしたのだ?」
そんな二人を見て時雨さんは不思議そうに首を傾げる。
「い、いやなんでもない!」
何かの気の迷いだったのか、さっきまでの表情が嘘のようにいつもの怖い表情へと戻り翼の女はそのままどこかへと行ってしまった。
「あっ!待って康生!」
そして翼の女と入れ替わりにエルがやってきた。
「工房に行くんだったら私もついていく!じゃないと康生また無茶するから!」
「あっ!だ、だったら私も!」
エルの提案を聞き、すぐに時雨さんも工房へとついて行こうとする。
「駄目ですよ隊長!あなたはこれから仕事が一杯あるんですから!」
しかしそんな時雨さんを近くにいた兵士が止める。
「うぅ……、でも…………」
時雨さんは迷いながら康生と兵士を見比べる。
「し、心配しなくても大丈夫ですよ時雨さん」
よほど心配してくれているのかと康生は思ったので、心配しなくてもいいと伝える。
「うぅ……」
しかしそれでも時雨さんが悩む顔を続けるので、康生はどれだけ心配かけさせているのかを自覚した。
「大丈夫だって時雨!康生は私に任せて。時雨は時雨の仕事をやってきて」
最後にエルの言葉もあり時雨さんはようやく諦めた、というか苦渋の決断をしたというような表情を浮かべたまま中央広場へと行ってしまった。
「……それじゃあ行こうか」
「……うん」
時雨さんがいなくなり、二人で工房へ行こうとしたが、ここで康生は思いだした。
結局ベッドでキスしてからまともにエルと話せてないことに。そして、どういう感じで話せばいいか康生は分からずにいた。
「…………」
「…………」
なので二人は工房まで無言で歩いて行ったのだった。
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