第170話 信じよう
「――康生。入るぞ?」
エルと康生が雑談を交わしている最中に扉がノックされる。
「はい?大丈夫ですよ?」
「どうしたの時雨?」
楽しい雑談の最中にいきなり重苦しい雰囲気の時雨さんが入ってくる。
隣には翼の女も一緒だった。
「康生に合わせたい人がいるんだが……」
とそこまで言った所で、時雨さんの背後から一つの影が出てくる。
「お久しぶりですね英雄様」
「お前はっ!上代琉生!?」
そう。時雨さんの背後から出てきた人影は上代琉生だった。
一体どうしてここに?お前の目的はどうしたんだ?などと様々な疑問が一瞬のうちに浮かぶ。
しかしその疑問を口にする前に、上代琉生は康生の言葉を押さえるように指を突き立ててる。
「まぁ、色々聞きたいこともあるだろうけど、まずは俺の話から聞いてもらうよ」
「お前の……話?」
先に言葉を言われ、康生は仕方なく言いたいことは後にして話を聞く。
「簡潔にいえば今から大体一週間ぐらいにあの地下都市の人達が攻めてくるって話だよ」
「「えっ!?」」
康生、それにエルまでもが驚愕の声を漏らす。
確かに康生達は反撃が来るであろうことを予想していたが、こんなにも早く来るとは思っていなかったようだ。
なぜならこちらには向こうの兵士の約半分を味方につけ、さらには異世界人達だっている。
それなのにこうも早く攻撃を仕掛けてくることに疑問を抱かずにはいられなかった。
「まぁ、色々な疑問が渦巻くのも分かるかもしれないけど、それだけ今人類は英雄様達を倒そうと躍起になっている。なにせ様々な所から色んな部隊が派遣され、大舞台が結成されているぐらいだ」
「俺たちを……」
改めて自分達が人類から敵対されているという感覚を感じた康生は苦い顔をする。
しかしすぐにその考えはやめ、対策を練るべく頭を使わせる。
「――そもそもどうしてここにお前が。いや、その情報を知らせにきたんだ?」
そう。康生は上代琉生については多少なりとも知っているつもりだ。
わざわざ康生達を助けにくるためだけに情報を教えにきてくれたとは考えずらい。最悪、俺たちを騙そうとしている可能性だってある。
「俺だってあいつらは憎いんだ。この街でも俺は都長を追い出すために一役買っただろ?」
確かに上代琉生は都長を失脚させるために、重要な証拠を見つけた。
さらには向こうの地下都市で都長が悪事に荷担している事を康生に教えてくれた。
だから康生は上代琉生の言っていることが本当だという事が分かる。
しかし、それでも何か裏があるのが上代琉生という人間だ。
そもそもあれだけの事をしたのは全て妹のためだと聞く。
「――これも妹のためなのか?」
「まぁ、結果的にはそうなると俺は思ってるよ。だから俺はここにきた」
お互いに黙って見つめ合う。
「…………分かった。その情報信じよう」
「ありがとう英雄様。こっちの人達は全然信じてくれなくて困ってたんだ」
康生が言うと上代琉生は安心したようにため息をつく。
「で、でも康生!こいつを信用していいのかっ!?」
しかし時雨さんは未だに上代琉生の事が信じられない様子だった。
「――もしも何かあれば俺が責任をとります。だから一応は信じてあげて下さい」
「……康生がそこまでいうなら……」
という事で康生達は改めて上代琉生から詳しい話を聞くことになった。
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