第169話 暇

「はぁ……暇だ」

 本来ならば康生は暇な時間などないほどに今は忙しい。

 魔法の研究をしたり、魔法を扱う練習をしたり等々忙しいのだ。

 だが一度気絶してしまったせいで、こうして時雨さんの家で一人ベッドに横になっている。

「……流石にこの状況で抜け出したり魔法の練習をしたりしたら不味いよな?」

『――当たり前ですよ。やはりご主人様は馬鹿ですね』

 康生の独り言かと思われた言葉にAIが返事を返す。

 ベッドで一人とは言うものも、幸いな事に康生にはAIがいるので、話し相手には困らないようです。

『――代わりに私がデータをまとめてますので、その点はご安心下さい』

 そう。康生は自分の代わりにAIにデータをまとめるよう頼んでいたのだ。

 少なくともこれで多少は魔法の研究を進めることが出来ている。

 そう心の中に言い聞かせているのだが、どうしても康生自身で動かないことにモヤモヤしている。

「康生〜ちゃんと休んでる〜?」

 とそんな時にエルが部屋に入ってくる。

 恐らく康生の様子でも見に来たのだろう。

「ちゃんと休んでるから安心してよエル」

「ダメ安心しない。康生はいつもそうやって無茶ばかりするんだから」

 しかしエルはいくら康生が休んでいても、安心してはくれないみたいだ。

 もしかしたら、このまま休んでいたら解放してくれると淡い希望を抱いていた康生だったが、どうやらその希望も無駄だったみたいだ。

「それより暇だったんじゃない康生?」

「当たり前だよ……」

 いくらAIがいるとはいえ、暇じゃないわけではない。

 康生は引きこもりには慣れているが、淡々とベッドの上で何もせずに過ごす事は慣れていないのだ。

「そうだと思って私が話し相手になりに来たんだから感謝してよね」

「話し相手ね……」

「何?私じゃ不満?」

「いや別にそんな事はないよっ」

 話をしている暇があれば、すぐにでも研究に戻りたい気持ちを康生は必死に押さえる。

 恐らく今何を言ってもエルが解放してくれそうにはないので、ここはとりあえずエルの言うことを聞き、ご機嫌をとるしかないと考えたのだ。

 しかしそんな事を思っていた康生だったが、久しぶりの休息の緩い時間ということもあり、思ったよりエルとの話に夢中になってしまう。

 その事からも康生がどれほど根を詰めていたかが伺える。

 エルもエルで、康生と今まであまり話せなかったからか、どんどんと話題を振っていた。

 そうしてしばらくの間、二人の仲睦まじい会話が続くのだった。




「――その情報は本当か?」

「はい、時雨隊長。確かな情報かと」

 地下都市中央にある広場。

 いつものように雑務をこなしていた時雨さんの元に一人の兵士が来ていた。

 なにやら深刻な顔をして話をしているようだ。

「……それにしても上代琉生。やつの目的は一体なんなんだ?」

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