第165話 工房へ
「はぁ〜……」
町を一人で歩くエル。
その表情はとても楽しそうといえるものではなく、先ほどからため息ばかりをしていた。
ため息の原因というのは康生だ。
結局朝食の時もそうだったが、康生は工房から出ることはなかった。
康生と話す機会が減り、エルはこうしてため息を吐いているのだった。
「もぅ。ご飯ぐらい一緒に食べたっていいのに……」
先ほどから康生に対しての不満が止まらないエルでした。
『――会いにいってみてはいかがですか?』
「え?」
突然、エルがつけていたイヤホンからAIの声が聞こえてきた。
エルは以前から康生に渡されていたものをずっとつけていたのだ。
「でも康生は今忙しいだろうから……」
AIの提案に少し弱きに答えるエル。
『ですがご主人様は来るなとは言ってませんから大丈夫なのではないですか?』
「うぅ、確かにそうだけど……」
反論出来ずにエルはうずくまる。
確かに会いたいなら会いに行ってしまえばいいが、それはエルの心が引き留める。
「……康生は今、私の夢の為に頑張ってくれてるところもあるから……。だから邪魔だけはしたくないの」
そう。頑張ってくれる康生の邪魔だけはしたくないとエルは常々思っている。
だからこそ、いくら康生と会いたくても康生のいる工房にいけずにいるのだ。
『ですが……』
しかしAIは全く引く素振りを見せない。
そしてそのせいでエルは疑問を抱く。
「どうしてそんなに康生に会わせたいの?」
AIは基本的に康生の命令によって動くものだと以前エルは聞いてた。
でも、康生がエルと会いに来るように命令したのであれば、こんな遠回りな言い方はしない。
だからこそエルはAIの様子が気になって仕方なかった。
「ねぇ?どうしてなの?」
何も答えてくれないAIにエルは再度問いをぶつける。
一体何を思ってAIがこんな行動を起こしたのか。
今までのAIの活躍はエルだって知っているから、AIの行動は出来るだけ信用したいと思っている。
『……このままではご主人様はよくない方向に進んでしまいます』
「え?よくない方向って……?」
AIにしてはひどくアバウトな言い方にエルは戸惑いを見せる。
『言葉にすることは難しいのですが。このままだとご主人様はダメになってしまいそうなのです。だからエル様。どうかご主人様に会っていただけませんか?』
何があった?とか、どうして?とか、エルの中では様々な疑問が浮かんだ。
だがAIの態度から、エルは並々ならない何かを感じた。
「……私が康生と会えばいいんだね?」
『――ありがとうございます』
だからこそエルの足は自然と工房の方へと向く。
説明も何もなしに助けるように言われたエルだが、それでも何となく自分なら康生を助けられる。
そんな自信がエルの中にはあったのだ。
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