第164話 盗聴
「どいてくれっ!」
時雨さんが声を荒げて、人混みをかき分ける。
兵士から異世界人達が何かをしたという情報を聞きつけ、こうして駆けつけたわけだったのだが、その異世界人達を囲うように人混みが出来ているので目的の所までたどり着くのは至極困難だった。
「あぁ時雨さん!」
たが町の人がすぐに時雨さんの存在に気づき、道を開けてくれた。
そうしてやっとの思いでたどり着いた先には、異世界人達の姿が見える。
「何があった!?」
その姿を見つけるや否やすぐに問いつめる時雨さん。
「え?俺は別に何もしてないですよ?」
だが異世界人は突然現れた時雨さんに戸惑いの表情を見せるだけだった。
「わ、私はそこの兵士に大変だと言われてきたんだが……」
ここで少し冷静になった時雨さんは辺りを見渡す。
確かに異世界人の言う通り、周りでは争った痕跡など何もなかった。
ただ人混みが集まっているので、何かしらはあったとにらんでいた時雨さんだったが。
「一体何があったというんだ?」
時雨さんを呼びにきた兵士を捕まえる。
「大変なんですよ!異世界人達がそこの畑の……」
「畑の?なんだ?」
時雨さんは慌てる兵士が指さす先にある畑に目をやる。
「ん?」
そして畑を見た時雨さんはどこか違和感を感じ首を傾げる。
「あっ!すごい!野菜がもう実をつけてる!」
とエルが畑の変化に気づき声をあげる。
すると異世界人達もようやくどうして時雨さん達が騒いでいるのを理解する。
「あぁ、その事ですか。ちょっと私達の魔法で成長を促進させただけですよ」
成長を促進?
そんな事が出来るのかと時雨さんは疑問に思うが、傷を癒す魔法がある時点で、恐らくそうなのだろうと納得する。
「…………もっと早く報告しろ!」
「す、すいません!」
若干怒りを露わにした時雨さんだったが、すぐに何事もなくてよかったと安心するのだった。
「――都長。全ての部隊がそろったぞ」
「あぁ、ご苦労」
ここはとある地下都市にある都長の部屋。
その中には、直属の部隊の隊長達が並んでいた。
「これでようやくあの異世界人達を根絶やしに出来る……!」
部屋から見渡す外に並べられた兵士達を見て、都長は薄気味悪い笑みを浮かべた。
「そしてその功績で私は…………」
「……なるほど」
そんな都長の部屋の真下にあたる位置。
そこで一人の少年が盗聴した音声を聞いていた。
「――しょうがない。英雄様の為に少し働いてあげますか」
楽しそうに笑みを浮かべる一人の少年はそうして盗聴していた器具を置き、足早にその部屋を出たのだった。
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