第163話 農作業

「おはようございますお嬢様」

 早朝、朝早くに時雨さんの家にやってきた翼の女。

 エルを起こしにきたようだった。

「お、おはよう……」

 エルはまだ眠たそうに瞼をこすりベッドから起きあがります。

「あの女も起こしましょうか?」

「時雨の事?別に起こさなくていいと思うよ?そもそも部屋に入っちゃだめって言われてるし……」

「そうですか。分かりました」

 時雨さんはきっとあの部屋を見られたくないからエルにそのような事を言ったのでしょう。

 だからエルは時雨さんの隠れた趣味にまだ気づいていないのです。

「――おはよう」

 噂をしていたからか、エルの部屋に時雨さんが入ってきた。

「あっ、おはよう時雨!」

 時雨さんに向かってエルは元気よく手を振る。

「皆起きてるみたいだし、すぐに朝食の準備をするか」

「うん、そうだね」


 異世界人達の食事は時雨さん達が食材を持って行き、料理をさせることに決まった。

 最初は料理を作ってから渡す予定だったが、翼の女がそこまで面倒をかけるわけにはいかないという事で、そういう形になったのだった。

 そうして時雨さん達は食材を運び終わり、一緒に異世界人達と朝食を共にすることになった。


「それにしても康生大丈夫かな……」

 朝食をとる最中にエルが心配そうに呟く。

「まぁ、きっと大丈夫だろう……」

 エルの隣で、時雨さんも同じく心配そうな顔をしている。

「――あの子供がどうかしたのですか?」

 そんな二人を見てか、事情を知らない翼の女は怪訝な顔を向ける。

「いや、康生は工房に引きこもることになりまして。それでしばらく出てこないようなんです」

「康生、前もそんな事言ってしばらく引きこもっていたから……」

「なるほど、そういう事が」

 事情を聞いた翼の女は納得したような顔をする。

 そして時雨さんとエルも前回の事を思いだし、大丈夫だろうと心の中に言い聞かせる。

 もし何かあったら、エル達が持っているAIから何か連絡がくるからだろう。


 そうして異世界人達との朝食を終えたエル達は早速異世界人達に農作業を手伝ってもらう事に。

 人数を分けて複数のグループをあらかじめ作ってもらっていたので、すぐに案内し、仕事に就いてもらった。

「何もなければいいんだがな……」

 案内し終わり、時雨さんは通常の業務に戻る際に小さく呟く。

「きっと大丈夫だよ」

 時雨さんの弱音にエルは笑顔で答えた。

「そうだな……」

 と安心したように呟く。

 だが、

「時雨さん、大変ですっ!異世界人達が!!」

 一人の兵士が時雨さんの元へとやってきたのだった。

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