第157話 待機

「皆の様子はどうだ?」

 講堂へ異世界人達を案内してしばらくした後に時雨さんがやってくる。

「今の所皆は気に入ってはいるみたいです」

 講堂を見渡すせば、あちこちの部屋からそれぞれ異世界人達の声が聞こえてくる。

 まるで修学旅行に来たみたいに興奮しているようだ。

「それはよかった」

 どうやら気に入ってもらえるか不安だったらしく、時雨さんは異世界人達の声を聞いて少し安心しているようだった。

「本当にここを全て使っても構わないんだな?」

 時雨さんが来たからか、いつまにか翼の女が顔を出していた。

「ええ、全て使って貰って結構です。ここは誰も使ってませんでしたから」

「そうか。じゃあ遠慮なく使わせてもらう」

「はい、そうして下さい」

 翼の女も文句をいいに来たのではなく、単純にお礼でもいいに来たようだ。

「――それでお嬢様はどちらで泊まっているので?」

「エルですか?エルなら私の家で現在暮らしてますよ?」

「あなたの家ですか……。それなら安心です」

 安心とはどういう事だろうかと康生は首を傾げる。

 すると翼の女が一度康生を一瞥し、表情を強ばらせる。

「そこの子供なんかと一緒に泊まっていなくてとても安心しました」

 まるで康生に言い聞かせるように言った。

 しかし時雨さんの伝え方が悪かったのか、どうやら翼の女は時雨さんの家にはエルしか泊まっていないのだと勘違いしたようだ。

 康生は一度時雨さんと目を合わせ、真実を言うべきか尋ねたが、これ以上面倒な事にならないよう、とりあえずは黙っておくようアイコンタクトした。

「しばらくしたら一度、今後の事で話し合いたいのですが、大丈夫ですか?」

「えぇ、私と数人の兵を連れて行きましょう。なんならすぐにでも大丈夫です」

 そう言って翼の女は数人の異世界人達を連れて時雨さんと共に講堂を出て行った。

 さらに康生に接触させないよう、エルまでも連れて行ってしまった。

「だ、大丈夫とは思うけど、一応ここで見ておいてね康生」

 連れて行く時にエルが異世界人達を見ておくよう言われたので、仕方なく康生は講堂で待機することにした。


「――お前、魔法が使えるのか?」

 しばらく講堂の様子を伺っていると、数人の異世界人達が近づいてくる。

「じ、自分でもよく分からなくて……」

 いきなり質問をぶつけられ困ったように頭を掻く。

 すると他の異世界人達も集まってきて、康生をじっくり観察するように見てきた。

 異世界人達にとって康生という存在は人間でなりながら魔法を使った異質な存在なのだ。

 こうして敵対関係ではない状態になった今、異世界人達にとって興味の対象に他ならなかった。

(……そうだ)

 様々な視線を向けられる中、康生はふとある事を思いついた。

「あ、あの、自分ではよく分からないので……もしよかったら魔法について教えてもらってもいいですかね?」


 そう言って康生は異世界人達に魔法について教えてもらうよう頼んだ。

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