第156話 講堂

「――先ほどは少し取り乱した」

 広場へと戻った康生は、早速翼の女から謝罪?のような言葉をもらった。

 どうやらエルが康生に言わせるように言ったようだ。

「い、いえ、別に気にしてないですから大丈夫ですよ」

「…………だがお嬢様は渡さないからな?」

 しかし近くにいるエルには聞こえないように、小さく康生には聞こえるように呟いた。

 その言葉にぞくりと背筋が凍った康生だが、顔には出さないように苦笑いを浮かべた。

「それで、これから我々はどうすればよいのだ?」

 康生への話しはそれで終わりらしく、翼の女は近くにいる時雨さんに尋ねた。

 広場を見渡せばもう会場の片づけが済んでおり、街の人たちはそれぞれの仕事へと戻ったようだった。

 そうして取り残された異世界人達は一カ所に固まり、翼の女の指示を待っているようだった。

「とりあえずは……最初に話していた通り、講堂の中で寝泊まりしてもらう事になる。だからまずはそこへ案内しよう」

「と、いうことだ。それじゃあ皆、移動の準備だ」

「「「はっ!」」」

 そうして異世界人達と共に講堂へと足を運ぶことに。

 残念な事に時雨さんは連れてきた兵士達が暮らす場所の用意があるため、康生とエルでの案内となった。

「地下にこんな街を作るなんて人間はすごいな」

 途中、異世界人の一人がそんな独り言を漏らす。

「確かにそうだな。しかも魔法なんて使えないのに。ほんと大した種族だよ」

 異世界人から純粋に人を褒められて康生は少しだけ嬉しくなった。

 少なくとも、昨晩の宴で多少異世界人達の人間に対する価値観は変動したのだろう。

「――でしょっ?しかも皆優しい人ばかりなのっ!」

 そしてエルも異世界人達の会話に混じる。

 一度敵対されていた異世界人達とも、気軽に話すエルを見て康生は改めてエルのすごさを感じる。

「別にこれくらい私だって……」

 なにやら先頭の方から小さな声が聞こえたが、康生は何も聞かなかったことにし、そのまま前を歩く。


 そうしてしばらく歩きようやく、講堂なる建物が見えてきた。

「あれが講堂か?」

「はい、そうです。一応、この人数でも泊まれるようにはなってるそうです」

 翼の女に聞かれ、康生は事前に時雨さんから聞いていた情報を話す。

「そうか……」


 異世界人達が人間の街で暮らす家。

 何も問題が起きなければいいけど、と康生は心の中で呟くのだった。

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