第152話 夜道

 暗い夜道。

 つい先ほどまでは広場の中で宴会が開かれ、街の中にすら騒ぎ声が響いていた。

 人と異世界人達が混じった声は、それはそれはとても大きなものだった。

 しかしそれもやがては静まりかえり、皆広場に伏せて眠っていた。

 そんな静寂の街の中、二人の人影が街の中を歩いていた。

「――ここでいいだろう」

 辺りに誰もいないことを確認した翼を生やした人影――翼の女が立ち止まる。

「分かりました」

 その後に続いてきたのは康生だ。

 宴会が終わるのと同時に、翼の女が康生を誘ってここまで連れてきたのだ。

 大事な話しがある。それだけ康生は聞いてここまで付いてきたのだが、正直少しだけ警戒していた。

 その証拠にいつでも煙幕を出せるように手元に煙玉を仕込んでいる。

 夜道で辺りに誰もいない状況。警戒しない方がおかしいという話しだ。

「……大丈夫だ安心しろ。ここまで来て貴様を倒そうだとは思ってない」

 どうやら康生が警戒していたことがバレていたようだった。

「そうですね」

 そういいながら康生は手元に隠しておいた煙玉を素直に直す。

 宴会での態度を見て、そんな事をする人ではないと康生は判断したようだ。

「それで話って?」

 一行に向こうからきりだそうとしないので、思わず康生から尋ねる。

「それは……」

 しかしそれでもどこか言いにくそうに言葉を詰まらせる。

 そんな様子に康生は疑問を浮かべる。

 内容が全く分からないので、康生から話しをするわけにもいかないから、少しだけ困ったものだ。

「……エルお嬢様のことだが」

(エルについて?)

 ますますどんな話しなのか康生は困惑な表情を浮かべる。

「――今まで元気にやってきたか?」

「へ?」

 翼の女の口から出た言葉に、康生は思わず聞き返してしまった。

「い、いや……その……エルお嬢様はあれから元気にやっているのかどうか聞きたくてな」

 一度聞き返したからか、今度は少し恥ずかしそうに頬を染める。

 いつものとは違うその態度に康生は少しだけ戸惑う。

 しかしいつまでも言葉を返さないのはいけなので、康生は口を開く。

「げ、元気でやってますよ。そりゃ最初ここに来た時は不安そうでしたが、今では街の人達とも仲良くやれていますし、全然元気だと思いますよ?」

 とりあえずそのままの事を康生は報告した。

「そうか……元気でやってるか……」

 報告を聞いた翼の女は安心したように、胸を撫でる。

「話しってもしかしてそれだけですか?」

「そっ、それだけだっ!じゃ、じゃあ私はもう行くからなっ!」

 どこか慌てたように、翼の女はそのまま康生を置いて広場に戻っていった。

「…………」

 夜道に残された康生はというと、翼の女のいつもと違う様子を見たせいか、しばらくボーと立ち尽くしていた。

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