第151話 宴

「異世界人の人達も手伝ってくれたおかげで、スムーズに会場準備が出来きた」

 広場を一望できるように、少し高い台に時雨さんが乗っている。

 広場の中は椅子や机やらが並んでおり、中央にはキャンプファイアーまで設置されてある。

 異世界人を歓迎するために作られたそれは、異世界人達にとっても中々好評のようだった。

 唯一の問題は食料だったが、それは異世界人達が元々持っていてものをもらうことで全ての人達に行き渡ることが出来た。

 聞いた話しでは、畑の方も作物が出来始めているということなので、恐らくこれからの食料も大丈夫なのだろう。

 とにかく、人間と異世界人達が共同で作り上げたこの広場は、歴史的に見ても特異な事なのだろう。

 しかし広場を見渡せば、皆笑顔を浮かべて椅子に座っている。

 そこには最初のようなわだかまりがないように思えた。

「――というわけで、乾杯っ!」

「「「乾杯っ!!」」」

 時雨さんの音頭で皆がグラスを掲げる。

 そうして、異世界人達を交えた宴のようなものが始まったのだった。




「――楽しんでる?」

「うん。楽しんでるよ」

 広場の隅で、一人食事をしていた康生の元へエルがやってくる。

「昔からどうも人がいる所は苦手だったから」

 とここにいる理由を話す。

「でも楽しんだったらいいわ」

 そう言って康生の隣の席にエルは座る。

 お互い食事は食べ終え、手元には飲み物が入ったグラスだけだ。

 特に何も話すわけでもなく、しばらく二人はグラスを傾ける。

「……本当にこんな景色が見られるなんて思ってなかった」

 ふいにエルが言葉を漏らした。

「い、いやっ!でも私はこんな未来が来るって信じてきたから!」

 恐らく最初の言葉は無意識の内に出てきた言葉なのだろう。

 エルはすぐにその言葉を否定した。

 きっとエルは今まで否定され続けていたので、もしかしたら心の中で無意識に自分の夢を否定していたのかもしれない。

 だからこそのあの呟きだったのだろうが、それでも康生はそんなエルを貶したりはしない。

「それでもエルが動いたからこうなったんだよ。全部エルのおかげだよ」

 康生はグラスをちょびちょびと傾けながらに言う。

「ううん、私だけの力じゃないよ。康生だって沢山助けてくれたし、時雨さんだってそう。それにこの街の人達だって、ここまで来てくれた私達の仲間だってそう。皆がいたから出来た事。それを私一人の力だけなんてのは絶対に思わないわよ」

 エルはすごい。そんな考え方が出来るエルがとてもすごい人に康生は見えた。

 同時に、エルが眩しすぎて自分の存在が余計に嫌なものだと思えてきていた。

 なんのために生きているのか。

 今まではエルのために生きてきた。

 でもこうして現実になろうとしている時にふと康生は考える。

 もし、エルの夢が叶ったならば、それから先の自分の生きる意味。ましてや生きる価値はどうなるのだろうと。

 しかしその考えはすぐに宴の喧噪に流され、今は楽しもう。と康生は思ったのだった。

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