第153話 あげない
「うぅ〜ん……」
早朝。広場で雑魚寝をしていた康生の目が覚める。
そして同時に体に何か乗っているような感覚がする。
「ん?」
ゆっくり目を開けると、そこには時雨さんが覆い被さっている光景が写った。
「えっ!?」
すぐに飛び起きようとする康生だが、時雨さんが邪魔で思うように起きあがれなかった。
(そういえば……)
康生は前回の宴会での記憶を思い出す。
あの時も確かに時雨さんはこんな感じだったことを。さらには寝起きも悪かったことを……。
「は、早く逃げないと……」
康生は過去の記憶を思いだし、時雨さんを起こさないように逃げだそうとする。
「――――ふぅ」
上手く逃げ出せた康生はため息を吐く。
(今後、宴会をする時は考えないとな……)
そんなことを考えながら進んでいると目の前にエルが見えました。
「ふわ〜……。あっ、おはよう康生」
すると丁度エルも起きたようで、康生を見つけます。
エルの寝起きは良いようで、多少寝癖がはねているだけで、それが少しだけ可愛いように思えた。
「おはよう、エル」
エルに気付いた康生は、そのままそばへと近寄ります。
「――昨日は上手くいったみたいでよかったね」
「うん!皆仲良くできそうで本当によかった!」
エルのその笑顔を見ていると康生は、とても心が和らぐような感覚に襲われた。
どうしてか自分まで笑顔になりそうな、そんな笑顔だった。
「このままずっと続けられるように頑張らないとね」
でも康生は目先の幸せよりも先の事を考える。
今が幸せでも、これから先はどうなるか分からない。
だからこそ、先の事を考え少しだけ頭を悩ませる。
「ほんとだね。康生と時雨にはこれからも迷惑かけるだろうけど、よろしくね」
「うん」
すぐに返事を返す康生。
しかし心の中では本当にエルの力になれているかとても不安だった。
全て一人でやっていくと決め十年間も引きこもっていた康生だが、こうして外の世界で様々な人に助けられながら生きていくことしか出来なかった。
その事実が康生が思う生きる価値について少し離れているように感じられ、時折どうしようもない気持ちになってしまう。
「……貴様、えらくお嬢様と仲が良いじゃないか?」
そんな時、どこからか殺気のようなものが飛んでくるのが分かった。
「あっ、おはよう!」
先に気付いたエルが挨拶を交わす。
エルの視線の先には、怒りを露わにした翼の女が立っていた。
「え、えっと……おはようございます」
とりあえず康生はエルに習って挨拶をする。
しかし翼の女は何も言わずただ康生を睨むだけだった。
「……どうしたの?」
そんな翼の女の様子に気付いたエルが疑問に思い尋ねる。
「――貴様なんかにお嬢様はあげないからなっ!」
「えっ!え、えっ!?」
翼の女の言葉を聞き、すぐにエルが慌てたように立ち上がる。
「ちょ、ちょっと私別に康生とそんな仲じゃ……っ!」
どうしてかエルが少し顔を赤らめていた。
「絶対に渡さないからなっ!!」
そして翼の女はそんなエルを見てさらに声を荒げたのだった。
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