第145話 貧弱
「まずは私を守ってくれてありがとう」
異世界人達の前に立ち、エルは深く頭を下げた。
だが先の戦いでの反応を見るからに、エルに対する反応はよいものとはいえない。
それでも曲がりなりにも地位があるということで、ここで不満を口にする者はいなかった。
皆、エルをじっと見つめているだけだ。
「――私には夢があります」
頭をあげたエルは早速言葉を紡ぐ。
皆をこの状況から救うために、そして康生達の期待に答えるために――そしてなにより自分の夢のために、エルは言葉を紡ぐ。
「私たちと人間達が手をつなぎ、お互い認め合う世界を創りたいという夢です」
夢の内容を聞き、異世界人達はそれぞれに反応する。
表情を曇らせる者や、顔を赤くし怒りを示す者、中にはそっぽを向く者さえいた。
様々な反応を示しているが、それらの感情はすべて負の感情であることは間違いなかった。
「――そんなことが本当に出来るとお考えですか?」
そんな中、翼の女が横やりを入れる。
「はい、少なくとも私はそう思います」
だがエルはハッキリと言い返す。
「今この状況でも私たちは人間達と共に行動しています。だからこそ絶対に無理な未来というわけではないと私は思っています」
エルの言葉を聞き、異世界人達の表情が少しだけ変化した。
といっても微々たるもので、一応聞いてみようかの気持ちの者が増えただけである。
「我々は今、人間達から逃げてきたのですけどね」
しかし翼の女はあくまでも意見を変える意志はなく、ただ横やりを入れ続ける。
「分かっています。でもそれがなんですか?私たちだって仲間内で戦うことなんてよくあることでしょう?種族間の戦争なんて普通にありました」
「なるほど。だからこそ人間も一緒だと?」
翼の女が納得するように頷く。
「そうですっ!だからこそ私たちと人間はお互いに手を取り合うことが出来るんです!」
肯定されたように感じたのか、エルの表情が少しだけ明るくなる。
しかし翼の女はそんなエルの期待をすぐに裏切る。
「――我々でも種族間では手を取り合うことなど出来ないと思いますけどね」
「っ……!」
翼の女の言葉にエルは思わず黙り込む。
よくよく異世界人達を見れば、確かにそれぞれの種族ごとに固まっている。しかも種族の間にはは明確な隙間さえも見える。
このことから異世界人の中でも、種族間での抗争があることが伺える。
「所詮人間も一種族。確かにそう考えればいいのでしょうが、もしそうなった場合は貧弱な人間はすぐに滅ぼされる。結局今と変わらないじゃないですか?」
「…………」
続く翼の女の言葉にエルは何も言い返すことが出来ず、ただ黙ることしか出来なかった。
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