第143話 分かりません

「エルっ!大丈夫だったか!」

「康生っ!」

 エルの姿を見つけた康生はすぐに駆け寄る。

 確認したところでは何も傷がないことが分かりひとまず一安心する。

「康生こそ大丈夫なの?」

 エルもすぐさま康生のけがを確認する。

 康生の体には砲弾を防ぐ時に出来たのか、軽い火傷のような跡がいくつかあった。

 それに気付いたエルはすぐさま康生の傷を癒す。

「ありがとうエル」

「ううん。それはこっちのセリフだよ康生」

「――二人共私を忘れないでくれよ?」

 そんな二人の空間に時雨さんの声が混じる。

「あっ、すいませんでした時雨さん」

「ご、ごめんね時雨」

 二人はすぐさま慌てたように謝る。

「まぁ、二人が元気そうでなによりだ」

 時雨さんは軽く微笑む。

 現在、康生達は地上で休憩をとっている最中だ。

 結局、あれから隊長達も撤退してくれたおかげで康生達と異世界人達は難なく撤退することが出来た。

 地下都市の位置から十分距離をとった場所まで来たので、現在こうして休息をとっているというわけだ。

「――まさか兵士の人達も連れて来るなんて思っていなかったよ」

 とエルが康生の背後にいる兵士達に視線を向ける。

 そう、結局康生は味方になってくれた兵士達皆をここまで連れてきた。

 数にしておよそ百人と少し。

「連れて来たっていうか、助けてもらったんだけどね」

「それでもすごいよ」

 エルは康生に敬意の視線を送る。

 異世界人と共に人間が行動する。

 これこそがエルが夢見た光景なのだから。

 それを実現した康生に、エルはひたすらに感謝の念を抱く。

「お嬢様」

 とそこへ翼の女が近づいてくる。

「――それとお前」

 エルを呼ぶと同時に康生に視線を向ける翼の女。

「もう一度聞く。お前は我々の仲間なのか?」

 ここにきて、翼の女は再度あの質問を康生にぶつける。

 あの時よりは多少は冷静になった康生だが、それでもまだ、自分が魔法を使ったことを信じられずにいる。

「…………分かりません」

 だからこそ、康生はそう答えるしかなかった。

 実際、魔法を使ったの感覚は康生にもある。自分の体からエネルギーが放出された感覚は今でも覚えているようだ。

「そうか……」

 翼の女は短く頷く。

「ではお前はこの先一体どうするつもりだ?」

 それは兵士達のことか?それとも康生が異世界である可能性があることか?それともエルとのことか?

 わずかな言葉だけでは康生は、翼の女が聞きたいことが分からずにいた。

 なにより康生自身、思い浮かべたすべての答えに対し、どうするべきが全く分からずにいた。

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