第142話 老人
「都長。裏切り者が多数出現し、我々にはどうにもできませんでした」
都長の元へと帰るなり、隊長達は頭を下げる。
「――使えないな」
感情のこもってない声で短く返す。
しかし感情がこもってないことから、隊長達は少し安心する。
都長も恐らくこの状況で隊長達が勝てる可能性がないことを分かっているのだろう。
「すぐに兵を準備させろ。私は直属の部隊を召集させる」
それだけいって都長は地下都市の中へと戻っていった。
「…………」
最後までひたすらに頭を下げていた隊長達はそこでようやく頭をあげる。
「……これでよかったんだよな」
「あぁ、これでよかったんだよ」
「そうだな」
皆、それぞれ苦痛の表情を浮かべている。
それは康生達に逃げられてしまったことに対するものではないように感じられた。
しかしその真意は隊長達にしか分からないものだ。
「――さて、じゃあすぐに兵を準備させよう」
隊長一人が声をあげると、他の隊長も同意し、すぐに兵をまとめ、次の戦いへの準備を始めた。
「――なるほどな」
場所が移って、ここは地上。
望遠鏡のようなものを見ながら一人の少年――上代琉生がニヤリと表情を緩める。
上代琉生は先ほどまでの戦いをずっと見ていたのだ。
当然、康生が魔法を使うところもしっかりと目撃している。
それでいてなお、上代琉生は康生に対して嫌悪を示すわけでもなく、ただただ笑みを浮かべる。
「中々面白いことになりそうだな」
笑みを浮かべたまま上代琉生はその場を移動し始める。
その行き先は誰も知る由もなかった。
『――了解した。では全都市直属の部隊を四つほど向かわせよう』
『そ、そんなにですか?』
『――不服か?』
『い、いえ!とんでもないですっ!必ずや異世界人を殲滅してみせます!』
『朗報を待っている』
『はっ!かなら――』
言葉の途中で通話が切られる。
ちなみに最後の声は都長の声のものである。
「――まさか異世界人と共に行動を始めるとはな」
通信が終わり、一人の老人が手元の写真を眺めながら一言呟く。
その写真には一人の子供が写っている。
「まさかここまで成長するとは……」
老人が写真を握りしめる。
あちこちにシワがあるその写真からはかなり古いものということが分かる。
老人はその後、写真を広げ大切に机の中にしまったのだった。
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