第140話 やってやる
「待って下さいっ!」
声が聞こえたかと思うと、一人の兵士が隊長の剣を止めていた。
「何をする」
隊長はすぐさま威圧し、兵士を睨む。
兵士はそんな隊長に怯え、体をブルブルと震えさせるが、それでもその場所――康生の前から動こうとはしなかった。
「だ、だっておかしいですよっ!お、俺達は元々、異世界人達と協定を結ぶためにこの作戦を決行したんじゃないですかっ!なのにどうしてこちらから攻撃を仕掛けているんですかっ!どうして逃げている者に追い打ちをかけるんですかっ!」
隊長を目の前にしても、それでも自分の意見をしっかり兵士は言い切る。
すると他の兵士達の反応も、その兵士に共感するように武器をおろす者が何人もいた。
「――これは命令だ。今すぐそこをどけ」
だがそれでも隊長は剣をおろすことはなかった。
「どうしてですかっ!」
そんな隊長に今度は康生が声をあげる。
「そこの兵士の言う通りですよっ!どうして俺たちを裏切ったんですかっ!どうしてエルの夢を裏切るんですかっ!」
「…………っ」
隊長はどこか苦しげに表情を歪める。
それはまるで見えない何かと戦っているようだった。
「仕方がないではないかっ!都長の命令は絶対だ!それに貴様は異世界人なのだろうが!我々は全て見ていたぞっ!」
康生が異世界人であることを隊長は指摘する。
「違うっ!俺は人間だっ!」
だが康生はすぐに否定する。
しかし隊長達はそれを認めようとはしない。
「――とにかく俺はこの作戦には反対ですっ!」
そんな二人の間に挟まれていた兵士は、このままだと埒があかないと思い、改めて自分の意志を表明する。
「そうか。――それでは貴様も裏切り者だな」
隊長は剣を持っている腕に力を入れる。
今までは手を抜いてたのか、兵士が防ぐ剣が徐々に押され始める。
「ぐっ……」
兵士と隊長ではやはり格が違うのか、力の違いはやはり歴然だ。
「やめろっ!」
そんな兵士を見て、康生は隊長の剣を弾く。
すぐさま兵士をかばうように前に出る。
「あ、ありがとうございます」
「それはこっちの台詞です。ああ言ってもらってすごく嬉しかったです」
「くっそ……」
剣を弾かれた隊長をよそに言葉を交わす康生達を見て、隊長はすぐに剣を構える。
だがそれよりも先に兵士が口を大きく開いた。
「皆も聞いてくれっ!この作戦に反対している奴も多いはずだっ!だからどうか、康生さんとエルさん、それに時雨さん達のために力を貸してくれっ!」
口をあけ、兵士は手に持っていた無線に声を張り上げる。
「貴様っ!」
隊長すぐさま剣を振りかざすが、康生は兵士を守る。
「俺からもお願いしますっ!もしこの先のことが不安なら俺たちとついてきて下さいっ!一緒に異世界人と手を取り合える未来のために力を貸して下さいっ!」
続けて康生が無線を借りて声をあげる。
「――やってやる!」
するとどこからか声が聞こえる。
「俺だってそんな未来を望みたいっ!」
「そうだ!俺だって!」
やがてその声はどんどんと広がっていったのだった。
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