第139話 上の命令

「敵の動きはどうだ?」

「はっ。現在、撤退を開始しておりますっ!」

 報告を聞いて自然と口角をあげる都長。どうやら作戦通り、こちらが優勢なことを聞き、優越感を覚えているのだろう。

「……このまま殲滅作戦に移行してよろしいのですか?」

 しかし都長の隣に控える兵士の表情は曇っている。

「相手は異世界人。遠慮なくやりなさい」

 都長は作戦を変えるつもりはないらしい。

 それを聞いて兵士は不満げな表情を浮かべるが、都長の指示に従う。

「さて、これで私も今の地位から……」

 兵士がいなくなると、都長は薄気味悪い笑みを浮かべるのだった。




「人間っ!前方から敵が来るぞっ!」

「分かりましたっ!」

 異世界人の言う通り、康生の前方からもうすぐそこに敵が迫ってきていた。

 こんなにも早く来るとは康生も予想しておらず――いや、正確には考えようとしていなかった。

 結局、戦うことになってしまう。康生の頭の中は、そんな後悔で埋まっている。

「僕一人でやるので皆さんは遠距離からの攻撃だけに専念して下さい!」

 異世界人に指示を出して、康生はとうとう迫ってくる兵士と向き合う。

「――っ!」

 そして気づく。兵士達の先頭に見慣れた隊長達の姿があることに。

「どうしてあなた達までっ!」

 康生は怒りに顔を染める。

 少なくとも隊長達は異世界人達と友好な関係を築こうとしていた。それは旅の中で康生が感じていたことだ。

 だが、現在は異世界人達と康生達を狙っている。

 そんな状況にただただ歯噛みするだけだった。

「……許してくれ」

 隊長の一人が剣を振り上げる。

 それはそのまま一気に康生の頭上へと落とされる。

「許せませんよっ!」

 攻撃を難なく交わし、すぐに拳をあてようとする。

 しかし康生の動きはそこで止まる。

「――やっぱり俺には無理ですよっ……!」

 この旅の中で隊長達と寝食を共にし、さらには武器の使い方まで教えてもらった仲だ。

 敵になったからといって、すぐに割り切れるほど康生は心が死んでいなかった。

「どうして戦わないといけないんですかっ……?」

 康生が呟くと同時に隊長達は顔を歪める。

 隊長達もまた、苦しそうに戦おうとしている。

「俺達は兵士だ。上の命令は絶対なんだ……!」

「時雨さんはどうなんですかっ!?時雨さんは俺達と一緒に都長に逆らいました!間違っているからって!隊長達は本当にこんなの正しいと思ってるんですかっ!?」

 さらに声を荒げる。

 しかし隊長達はそれ以上、口を開くことはなかった。

「どうしてっ!!」

 ただただ康生は叫ぶ。

 そんな康生に向かって隊長達は無言で武器を振り上げる。

「――待って下さいっ!」

 瞬間、声が響いたかと思えば、隊長が振り上げた剣が一人の兵士によって止められていた。

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