第136話 人間だ
「はぁ……はぁ……はぁ……」
クレーターの中で一人、康生達だけが立ち尽くす。
(い、一体何があった…………?)
康生自身もたった今何が起こったのか理解出来ていないようです。
一体どうして翼の女を吹き飛ばすことが出来たのか、あの翼の女を包んだ電気は一体何なのか?
さまざまな疑問が康生の中を埋め尽くす。しかしその瞬間は、康生の頭は真っ白で、何をしたのは全く分からなかった。
「ぐはっ!」
すると康生の背後で血反吐を吐く声が聞こえる。
慌てて振り返ると、翼の女が必死に立ち上がっていた。
「き、貴様、今……な、何をしたっ!?」
怒鳴り散らされるが、康生自身、自分で何をしたのか分かっておらず、何も答えることが出来ない。
「私を包んだあの雷……。あれは私のではないっ。貴様から放たれた物だっ!」
その言葉を聞き、康生は一瞬頭の中である考えが浮かぶが、すぐに否定する。
だってそんな訳がない。康生は自分にそう言い聞かせる。
「――貴様……もしかして、私達と同じなのか?」
「違うっ!俺は人間だっ!」
翼の女の言葉に康生はすぐに反論する。
「じゃあ、今の出来事はどう説明がつくというのだ?それとも人間は雷を自在に出せるのか?」
「それは……」
言葉に詰まる康生。
違う。そう否定したいはずなのに、何も言い返す材料がない。
そしてそれは康生自身も前から少し疑問に思っていたことも関係している。
時雨さん達と共にリングで隊長と戦った時。最後、隊長は火に包まれた。
あの時は銃のせいだと考えていたが、よくよく考えれば、銃を壊した程度であれほどの火が出ることはないことぐらい康生には分かる。
そしてその疑問の答えがこれなのだ。
「まさか、我々の仲間がこんな所に紛れ込んでいたとはな」
翼の女はもうすでに康生達を異世界人だと捉えている。
それはクレーターの上で見守っている異世界人達も同じだ。異世界人達は魔法に見慣れている。だからこそ、康生が魔法を使ったのだと分かったのだろう。
「そんなはずはないっ!康生の両親は確かに人間のはずだっ!」
と上から時雨さんが怒鳴る。
「それは本当にそうなの?」
翼の女が時雨さんを睨む。
時雨さん自身、康生が生まれた時や、両親と血がつながっていること。それら全てを立証できないので、押し黙ることしか出来なかった。
「俺は……確かに、人間で……」
「まぁ、いいわ。今はとにかく人間達を殺しましょう」
康生が戦える状態ではないと判断した翼の女はすぐさま方向を変える。
時雨さん達の背後にいるであろう、人間達に視線を送る。
しかし次の瞬間、翼の女めがけて大砲の玉が飛んでくる。
「ちっ」
翼の女はすぐさま距離を取って避ける。
「そんなっ!」
そしてそれに驚いたのは康生だった。
すぐさま耳につけていた無線で都長に連絡を取る。
「どうして攻撃したんですかっ!俺はまだやられてませんよっ!」
しかし声は返ってくることはなく、代わりに異世界人達の声が聞こえる。
「指揮官っ!人間達に囲まれてますっ!」
康生が視線を動かすと、異世界人を囲うように、兵士が配置されているのが分かった。
「全ての異世界人達を殺せっ!」
都長の声と共に、兵士達が全ての異世界人達を殺すべき突撃してくる。それはクレーターの中にいる康生自身も狙っているということ他ならなかった。
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