引き篭もって10年間〜外に出たら世界が滅んでいました〜

第135話 電流

「まだそんなふざけたことを……！」

　翼の女の表情が再び憎悪に染まる。

　しかしそれでも康生は笑って向き直る。

「殺し合うしかない。そんなわけがない。今だってこうして話し合うことが出来る。だからこそ分かり合うことが出来るんだっ！」

「戯れ言をっ！」

　翼の女が空高くに飛び上がります。

　そのままみるみる上昇していき、ギリギリ視認できる範囲の所で停止します。

「もう、お前の話は聞きたくない」

　康生達には聞こえぬよう、翼の女はそっと呟く。

「――これで終わりだっ！」

　次の瞬間、翼の女はその場で急降下する。

　まっすぐ地面に伸ばした刀は康生を捉えている。

「避けれるものなら避けてみろっ！」

　そのあまりにも速いスピードで、翼の女の距離はみるみると康生に近づく。

　全身がうっすらと光っているように見えるので、恐らく自身に雷を纏わせたのだろう。

　すぐに回避行動をとろうとしても、もう遅い。とにかくとてつもない速さだった。

「康生っ！」

　エルは咄嗟に叫ぶ。

　しかし今からエルが出来ることなど何もない。ただ見ていることしか出来ない。

　そして康生も必死に考える。この状況を打開する方法を。

「死ねっ！」

　だが、いいアイデアが浮かぶことはなく、刀は康生の目の前に迫る。

「くそー！！」

　康生はヤケになってグローブをはめた拳で刀を殴る。

　当然雷を纏っているので、すぐに康生の体に致死量の電気が流れるだろう。その次に待つのは死。

　グローブが砕け、拳が砕け、骨が砕ける。手から腕へ、腕から体へ、体から足へと、次々と破壊されていく。

　きっとそんな光景が広がるのだろう。

「――う、おーー！！！」

「なにっ！？」

　しかし翼の女は空中で止まる。

　刀の先にはまだグローブが見え、それを装着している康生の姿もある。

　そう。康生はまだ生きているのだ。

「き、貴様どうしてっ！？」

　翼の女は驚愕に顔を染める。

　何故ならは、康生は絶対に死んだと思われていたからだ。

　しかし康生はまだ生きている。さらにはグローブで刀を止めている。

　あれほどまでの落下スピードで落ちてきた刀をだ。

「いっ、けー！！」

　康生は叫ぶ。

　とにかく叫び、全身の力を全て使う。

　するとどうしてことか、グローブを通じて力が伝わったのか、刀の先にヒビが入る。

「なっ！」

　その後の事は一瞬の出来事だった。

　グローブが上に上がったかと思えば、刀はボロボロに砕ける。刀を所持していた人物は宙に飛ばされ、それを追うように――光、正確に言えば電流が空を翔る。

　電流が翼の女を包むと、今度はとてつもないスピードで地面へ落下する。

　……一体何が起こったのか、その場にいる者は誰一人として理解出来る者はいなかった。