第134話 鬱憤

「いや、俺はあなたとただ話し合いをするだけです」

「まだ言うかっ!」

 いつまでも康生の態度が変わらない事に怒りを覚えたのか、翼の女は今度は思い切り、雷を纏った刀を振り下ろす。

「どうしてあなた達は人間を恨むんですか?」

 康生は瞬時に翼の女の懐まで飛ぶ。

 それと同時に拳を振り上げて、翼の女の腹の寸前で止める。それにより風圧が発生し、翼の女は後ろによろめく。

「やっと戦う気になったか!」

 康生が攻撃してきたことに、どうしてか翼の女は喜びの感情をあげる。

「質問に答えて下さい!どうして人間を恨むんですか!」

 しかしそれでも康生は質問を投げかける。

「そんな物は決まっている!貴様ら人間が憎いからだ!」

 翼の女はそう言って刀を振り上げて、先ほどより速く振り下ろす。

 それをすれすれの所で避けた康生は、今度も相手の懐まで飛び込む。

「どうして憎いんだ!」

 一度食らった方法だからか、翼の女は今度はすぐに康生の動きに対応する。

 拳が振り下ろされる寸前に、刀を腹の前に構える。

「憎いものは憎いのだっ!」

 そして下から上へと刀を振り上げる。

 康生の拳がまっぷたつになる、かと思われたが、康生はあらかじめ決めていたように飛ぶ。

 そのまま翼の女の背後に着地をして今度は背中に拳を向ける。

「俺たち人間が何かあなたにしたのかっ!」

「ぐっ!」

 今度は直接拳を当てられて、翼の女はすぐさま距離をとる。

 それと同時に背後に向かって刀を振ったが、その時にはすでに刀に雷が纏っておらず、ただ弱い風圧が康生を襲うだけだった。

「したさっ!お前達人間は私達の仲間を沢山殺したっ!」

 その刀のまま翼の女は時間もおかずに再度突撃する。

 一直線に突き出された刀に康生は瞬時に拳を構え、刀の両面を拳でぶつけて押さえる。

「それはお前達だって一緒だろっ!お前達だって沢山の人間を殺した!」

 ジリジリと康生に向かって刀が突き出てくる。

 必死に力を入れる康生だが、それでも完全にくい止めることはできずにいた。

「だから私達はお互い殺し合うことしかできないんでしょうがっ!」

 その気迫におののき、一瞬の隙が出来た瞬間を翼の女は見逃さず、刀を一気を押し込む。

「くそっ!」

 一度滑り出した刀を止めることは出来ないようで、康生の踏ん張り虚しく、刀は康生の体へと深々と突き刺さる。

「……さて、お嬢様帰りますよ」

 刀を抜くと康生はそのまま地面に倒れ込む。

「康生っ!」

 エルが必死に叫んで、康生を助けようとクレーターの中に飛び込もうとする。

 しかし翼の女の威圧感に押され一瞬だけ立ち止まる。

 それでもエルは康生を助けようと足を進めようとする。

「来るなエルっ!」

 ゆっくりと起き上がりながら康生が叫ぶ。

「ふふっ、そうではなくてはっ!」

 康生が立ち上がるのを見た翼の女は高らかに笑う。

「そうでなければ、人間などに倒されたと、恥をかかされた私の鬱憤が晴れぬというものっ!」

 翼の女は笑みを浮かべながら再度刀を構える。

「エルっ!お願いだからもう少しだけ待っててくれ」

「康生……」

 肩から血を出しながら康生はゆっくり翼の女に向かい合う。

「さて、話し合いの続きをしようか」

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