第130話 クレーター

「………………」

 一応、という形で異世界人は康生達を前にして進行をやめる。

 ちょうどその真ん中には大きなクレーターがきており、それを挟むように康生達と異世界人が向かい合う。

 膠着状態と呼べるようなその状況の中で、康生に変わり、時雨さんが前へと足を進める。

「協定について話がしたい」

 時雨さんが前に出ると、異世界人達が一斉に武器を構える。

 それでも時雨さんは屈することなく、武器を持たずにゆっくりとクレーターへと近づく。

 ギリギリまで近づいた所で時雨さんが立ち止まり、異世界人達を見渡す。

 震える体を奮い立たし、大きく息を吸い込む。

「危ないっ!」

 しかし次の瞬間、時雨さんに向かって一本の矢が飛ぶ。

 エルが咄嗟に叫ぶが、時雨さんは動きが間に合わずにいた。

 矢は狙い違わずに時雨さんの頭へと直撃、――するかと思われたが、寸前の所で矢は弾かれた。

「…………」

 その矢を弾いたのは康生だ。

 康生は空中からそっと地上に降り、何も言うことなくただ立ち尽くす。

「……ありがとう」

 時雨さんは康生に短くお礼を言う。

 康生が助けてくれた事もあり時雨さんの緊張が少しだけ和らぐ。

 同時に、不意打ちとも言える攻撃を顔色一つ変えずに防いだ康生の圧倒的存在感が異世界人に示された。それにより、恐らくもう不意打ちを仕掛けてくることはしないだろうと思われた。

「きょ、協定とは一体どういう事だ。お前達人間は私達の敵だ。今まで仲間を散々殺しておいて、急に協定なんてのは虫がいいんじゃないのか?」

 異世界人の中から一人、全身を毛で覆った、狼のような人物が一歩踏み出し、時雨さんの声に応じる。

「それは勿論分かっている。それでも私達は元々は敵ではなかった。だからこそ分かりあえることができると思うんだ」

「分かりあえる?そんな事出来るわけないだろうが!俺たちは忘れないぞ!我々がここに来て、先に攻撃を仕掛けてきたのはお前達だろう!俺たちは少なくとも歩み寄ろうとした!」

 歩み寄ろうとした。恐らくそれは本当のことなのだろう。

 しかし人は皆、突然怪物が現れて混乱し、攻撃してしまった。

 確かに最初は人間に非がある。

 それは時雨さんが一番分かっていることであり、その話を出されて時雨さんもすぐに言い返すことが出来ずにいた。

「――でも私達にだって非はある!」

 そんな中、時雨さんをかばうようにエルが声をあげたのだった。

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