第129話 止まってくれ

「いたぞ!!」

「よし!野郎共!人間達を殺すぞ!」

「「「オォォォォ!」」」

 よほど戦いに飢えているのか、人間の姿を発見した異世界人達は凄まじい雄叫びをあげる。

 その雄叫びが開戦の合図となり、地下都市を守る兵士達は各々武器を構える。

 しかし、その兵士達より遙か前方にいる康生達三人の姿を捉えた異世界人は真っ先に声をあげる。

「裏切り者もいるぞ!奴は生け捕りにして捕まえろ!いいか!絶対に殺すんじゃないぞ!」

 異世界人の集団からそんな声が聞こえる。

 同族なのだからか、それともエルから情報を引き出すためなのか、とにかく異世界人達はエルを生きて捕らえるようだ。

 しかし、どのみち捕らえられてもエルには明るい未来は待っていないだろう。

 つい最近までは仲間だった者達に、一斉に敵意を向けられたエルの体は小刻みに震え出す。

「エル……」

 そんなエルをそっと時雨さんが抱き寄せる。

「大丈夫だエル。俺がなんとかしてやる!」

 そして二人の前では康生が拳を構えてエルを励ます。

「……うん。二人共ありがとう」

 二人に励まされエルの震えは少しだけ収まる。

「そろそろか……」

 異世界人達の姿が視認出来た所で、康生は用意してあったメガホンを取り出す。

 これも康生が改造したもので、より遠くまで声が届くものだ。だから、異世界人皆に声を届けることが出来る。

「皆!戦う前に俺の話を聞いてくれ!俺は君たちと交渉がしたい!」

 康生が叫ぶ。

「何が交渉だ!人間なんぞと交渉するわけがないだろうが!!」

 しかし当然のように異世界人は康生の話を全く聞く様子はない。

 だがそれは分かっていたこと。異世界人達がこれで止まるわけがない。

 だから康生は次の行動を起こす。

「空中浮遊作動!」

 康生が叫ぶと、装備が音声を読み込み、康生の考えている動作を実行する。

 今回の場合は、靴と背中にある装置が働き、康生の体を宙に浮かせる。

「よし。じゃあ次っ!」

 宙に浮いた康生は異世界人達が自分に注目している事を確認する。

 それを確認した後にさらに次の行動に移る。

「はっ!」

 声と同時に拳を一発、地面に向かって打ち込む。

 瞬間、爆発音が辺りに響き、そこにはおよそ人の力だけでは出来ないような大きなクレーターが現れる。

「な、なんだあいつはっ……!」

 その威力を見て異世界人達の動きはほんの少し遅くなる。

 目の前にいる康生を驚異と認識したのだろう。

 だからこの隙を見計らって康生は宙に浮いたまま、再度メガホンに口をあてる。

「俺はドラゴンを倒せる力がある!この戦いで大勢の命を奪うことが出来る!だがそれはこちらも同じ!だからこそ俺たちと交渉をしないだろうか!」

 ここでもう一度、交渉の話を持ちかける。

 先ほどの芸当を見せられては異世界人達も、用意に無視することは出来ない。

(さて、これで止まってくれ……!)

 康生は異世界人達を見ながら、心の中で強く強く思うのだった。

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