第123話 解決策

「……康生、一体どういうつもりだ?」

 部屋に戻ると早々に時雨さんが康生を問いつめる。

「どういうつもりって言われても。俺は自分の正しいと思ったことをしただけです」

 康生も負け時とまっすぐに時雨さんを見つめる。

「エルの夢はどうしたんだ?康生も異世界人と戦うことは賛成してなかっただろ?」

 そうだ。ここに来る間に出会った異世界人とも康生はエルの望み通り、戦う事をせずに乗り切るきった。

「でもあの時、時雨さんは真っ先に戦おうとしてました」

 しかし康生は負け時と反論する。

 だが時雨さんはそんな反論を気にも止めることはなかった。

「あの時は確かにそうだった。でも考えが変わった。エルが言っていただろ?異世界人と人間は仲良くなることが出来る。異世界人にも悪い奴はいるけど、人間にも悪い奴はいる。皆一緒なんだ。だからこそ私は異世界人と誤解したまま戦うことは望まない」

「…………」

 時雨さんの言葉を聞き康生は押し黙る。

 それでも康生は考えを変えるつもりはないらしく、時雨さんから目をそらす事はしない。

 そんな康生を見かねてエルが口を開く。

「もしかして両親の事を考えてる?」

「っ…………」

 どうやら図星だったようで、康生は顔をうつむかせる。

「しょ、しょうがないじゃないか……っ」

 やがて康生はどこか思い詰めたかのような表情を浮かべて顔をあげる。

「異世界人にはエルみたいな優しい人がいる。それは分かってる!で、でも悪い奴もいるんだ!このまま俺達が何もしなかったらこの町の人々は皆異世界に殺されてしまう。そんな事をする異世界人は悪い奴なんだよ!だから戦うしかないだろ!?」

 タガが外れたかのように康生の口から言葉があふれ出る。

 その言葉からは異世界人に対する憎しみがにじみ出ているように感じられた。

「…………」

 それでも康生の言っていることは正しい。

 確かに康生達が何もしなかったらただ町の人々は殺されるだけだ。

 でもただ戦うだけじゃ解決しない。

 時雨さんはそう思いながらも具体的な解決策が思いついていない現状、何も康生に言い返すことができなかった。

「――それでも私は戦うのは反対」

 しかしエルはまっすぐに康生を見つめて言う。

 その目は一点の迷いもなかった。

「ここで戦う選択肢を選ぶようだったら、この先もきっと同じ事を繰り返して結局夢は達成されない」

 そこまで言ってエルは表情を曇らせる。

「それでも今は何も考えがない。だから康生が戦う事は止めない。その代わり私は私のやり方でやる」

 それだけ言ってエルは扉の方へと歩いて行った。

「どこに行くんだ?」

 時雨さんが呼び止める。

「もう一度都長さんの所に行ってくる。何かいい方法がないか話し合うために」

 それだけ言ってエルは部屋の外にいる監視に声をかけて出て行ってしまう。

「…………」

 部屋にはしばらく沈黙が流れる。

「――悪いが私もエルと一緒に解決策を探すことにする。考えることを放棄したら人間終わりだからな」

 それだけ言って時雨さんもエルを追って部屋を出た。

「…………」

 そうして部屋には康生一人になってしまった。

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