第122話 盗み聞き

 都長のまっすぐな視線がエルを見つめる。

「そ、それは……」

 エルは口ごもる。

 そんなエルを見て都長はすぐに時雨さんと康生に視線を向ける。

「二人はどうなんだ?異世界人と戦うことに賛成か、反対か?」

 都長のまっすぐな目が時雨さん、それに康生を包む。

「わ、私は……」

 時雨さんもエルと同様に口ごもる。

 康生自身もどうしたら分からずにいた。

 ここに来るまでの間はエルの頼みでもあったし、康生自身も異世界人と戦うべきではないと思ったからあのような手段をとった。

 それが結果的にこんな事態になってしまったという事は康生も理解している。

 さらには自分の両親が異世界人に殺されたかもしれないとここで知ったことにより、多少なりとも異世界人に対する見方が変化した。

 だからこそ康生は悩みに悩んで結論を出す。

「――俺は戦います」

 康生は戦う意志を示した。

「康生っ……」

 その隣でエルが小さく名前を呼ぶ。

 しかし康生はエルに目もくれずに都長の視線を合わす。

「そうか。そう言ってくれると思っていた」

 都長は満足したように微笑む。

「よし!ならば早速少年を元に作戦を考える!」

 そうして都長は康生達から視線をそらし、兵士達と作戦会議を始めた。

「康生達は戦いが来るまで休んでくれ」

 そう言われて康生達は再度あの部屋へと戻ることになった。

「分かりました」

 時雨さんとエルはうつむいたまま、康生だけが返事を返し扉を出ようとする。

「期待しているからな」

 部屋から出る間際、都長が康生に声を駆ける。

「任して下さい」

 康生は振り返ることはしなかったが、一言だけ言ってそのまま部屋を出て行った。

「……失礼しました」

 最低限として時雨さんは部屋を出る時に声をかけたが都長はそちらに目もくれずにいたので時雨さんとエルもそのまま康生の後を追って部屋を出た。




「なるほどな」

 康生達が都長がいる部屋から出るのと同時期に、一人の男がにやりと笑みを浮かべて呟く。

 その手には耳に当てる機械のようなものを持っている。

「異世界人と本格的な戦いが始まるか。それに英雄様も出ると……」

 そう呟く男は――上代琉生だった。

「安全の為にあいつらに着いて来ただけだったが、こんなおもしろいことがあるとはな。英雄様のおかげでまた仕事が捗りそうだ」

 上代琉生はそれだけ呟き、暗い部屋を後にした。

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