第124話 仲間割れ

「……どうしたらいいんだよ」

 部屋を出ていったエルと時雨さんがまるで、自分を否定していみたいに感じ康生は表情を歪める。

 それでも康生は考えることはしない。

 だって、エルの言うとおりになる解決策なんて思いつかないからだ。

 康生は解決策などないと考えている。

 だからこそここでエル達を追うことはしない。

「――仲間割れか?」

 突然部屋に声が響く。

「だ、誰だっ!?」

 すぐに視線を動かし、声のした方向を向く。

「なっ!どうしてお前が!?」

 いつの間にか開かれていた扉の先には上代琉生が立っていた。

「よっ」

 驚愕な表情を浮かべる康生なんて気にも止めぬ様子で上代琉生は部屋の中へと足を入れる。

 瞬時に警戒の色を出す康生だが、上代琉生は何も気にせずソファに腰掛ける。

「おっ、水がある」

 そしてあろうことか机に置いてある飲みかけの水に口をつける。

 康生は上代琉生の意図が分からずにただ呆然とその行動を眺めることしかできなかった。

 やがて水を飲み終えた上代琉生はくつろぐようにソファに横になる。

「……どうしてここにお前がいる」

 くつろぎ出した上代琉生を見て、康生は再度訪ねる。

「あぁ、俺はちょっと用事があったからここにいるだけだよ」

「用事?」

 そういえば康生はまだ上代琉生の目的が分からずにいた。

 食料を盗んだと聞いたが、それは全て地下都市に隠してあったという。さらには都長の闇を暴き都長を失脚させた。

 そんな上代琉生の行動に康生は困惑ながらも、決して悪ではないと勝手に思っていた。

「――俺の目的は妹を探してる」

 ソファに寝そべりながらだが、上代琉生は急にまじめな表情になる。

 妹?と康生は疑問に思う。

 すると上代琉生はそれを補うかのように続ける。

「俺の妹は、前いた地下都市から送られた」

 送られた。その言葉を聞いた瞬間、康生は思い出した。

 あの都長は町にいる少女をさらってはどこかに送っていたということに。

「それで、俺は妹の跡を追ってここに来た。その意味は分かるよな?」

 まるで試すかのように上代琉生は康生を見つめる。

「――――あっ」

 意味はと言われ康生は少しの間考るとある考えにたどり着いた。

 でもすぐに頭でそれを否定しようとする。

「でも、あの人がそんな事……」

 そう。上代琉生が送られた妹の足取りを追ってきたということは、ここの地下都市もそれに関わっているということだ。

「分からないぜ?といっても妹は確実にこの地下都市に来ていることは絶対だ」

(そんな……まさか……)

 少なくとも多少の信用をおいていた都長が、その事件に関わっていると聞き康生は耳を疑う。

「じゃ、そろそろ俺は行くわ」

 まるでその事実を伝えるために来たのか、上代琉生はそけだけいうと、そそくさと部屋を出ようとする。

「あっ、そうそう。最後に一つだけ」

 上代琉生は扉の前で立ち止まる。

「この事は秘密な?もしバレたら証拠が見つからないからな」

 その言葉に康生はしばらく考えを巡らせたのちに、ゆっくりと頷く。

「それと…………これは余計なお節介だが、自分で決めたことを途中で投げ出すのは格好悪い奴がやることだぞ?それこそ英雄様の言葉を借りるなら価値のない人間だ」

 それだけ言って、上代琉生は今度こそ本当に部屋から姿を消した。

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