第116話 説明します
「まずは時雨から説明してくれないか?」
と都長は時雨さんに説明を求める。
「……はい。分かりました」
てっきり都長は事前に全て話しを聞いていたのだと思っていた康生は疑問を浮かべた。
「協定の話ですが――――」
時雨さんが隣で慎重に話しているのを聞きながら康生はしばらく考えた。
都長はいかにも内容を知っているふうだったのに時雨さんにわざわざ話させた理由を。
(――あっ)
しばらく考えた康生はようやく都長の意図に気づいた。
わざわざもう一度時雨さんに話をさせたのは、自分が聞いた内容と間違いがないか、隊長達に話してないことが本当はあるのでないか、という疑念を解消するためだと。
さらに一緒に食事をしたのは俺達から情報を聞き出すのではなく、俺たちの人となりを見るためだと。
それに気づくと同時に目の前に座っている都長がとても大きな存在のように康生は感じられた。
それから康生は都長が何かしないかとじっくり観察しながら時雨さんが説明し終えるまで待った。
「なるほど。一応報告通りだな」
やはり。都長の感想を聞いて康生が考えていたことが正しかったことを確信する。
すると都長はじっくり熟考するように目を閉じ腕を組む。
「――お前たちの目的はなんだ?」
しばらくして都長は目を開けた。
心なしか時雨さんではなく、エルの方を見つめているかのように感じられた。
「目的はただ一つです」
だがその問いに答えたのは時雨さんである。
「私達人間と異世界人の和平を結ぶことです」
「和平……か」
時雨さんの言葉を聞いた都長はそのままエルを見つめ直す。
「それはお前も同じなのか?」
「はい」
エルは即答する。
その答えを聞き、都長は腕を組んでうねり声のようなものをあげる。
「う〜ん……。時雨は正義感の強い奴だ。だから和平を結べるなら結ぼうとするのは分かる。それにそこの異世界人も今のところは我々に対し敵対しているわけじゃない……。でもその少年の目的は一体なんだ?」
「俺の……目的ですか?」
突然話しを振られた康生は少しだけ戸惑う。
「そうだ。話に聞いただけだが君は相当な力を持っている。それこそドラゴンを撃退したという話も本当なのだろう。さらに技術力まで持っている。そんな力を持つ君は一体どうして今まで表に出てこなかった?君がいたら異世界人との戦争も少しは違う結果になっていたはずだ」
その言葉から分かるように都長はどうやら康生の存在を一番危険視しているようだ。
都長の話す言葉を聞き康生も自分自身がどれだけ怪しいのかを納得する。
そして同時に自分の存在が今で協定の話の邪魔をしていたのだと理解する。
「そ、それは」
時雨さんは慌てて説明しようとする。
だが康生は時雨さんの言葉を遮る。
「分かりました。説明します」
と康生は都長に対し、自分の過去を語ることにした。
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