第117話 行方不明
「――以上が俺の過去です」
康生は自身の過去を全て話した。
中にはまだ時雨さんにも言っていない話しもあっただろうが、それも含めて包み隠さず話した。
何故ならばこれで少しでも康生が嘘をついてしまったら協定の話しがなくなるかもしれないと思ったからだ。
最低限でも時雨さん達の迷惑にならないよう康生は慎重に話をした。
「なるほどな」
話しを聞き終わった都長はしばらく悩むようにして康生を見つめる。
どうやら康生の話しが本当かどうかを考えているのだろう。
やがて都長は何かを思い出したかのように呟く。
「そういえば君の名字は……」
「名字ですか?俺は村木って言いますけど……」
康生はすぐに名字を名乗ったが、それが一体どういう意味があるかは分からない。
「――そうか、村木。なるほどな……」
だが都長は康生の名字を聞くとどこか納得したかのように頷いた。
その様子にエルや時雨さんすらも疑問を抱きながら見つめる。
するとそんな視線に気づいたのか都長は逆に質問を投げかけてきた。
「もしかして時雨はこの子供の両親を知らないか?」
「康生の……両親?」
時雨さんは全く分からないといったように首を傾げる。
それは康生も同じで、どうしてここで康生の親が出てきたのか分からずにいた。
「村木孝治。村木恵。これが君の両親の名前だろ?」
「えっ?は、はい」
突然両親の名前を出された康生は驚く。
「――そうかっ」
とここで時雨さんが何かを思い出したかのように呟いた。
その反応を見て都長は微笑むように答えを言う。
「そう。この二人は今や全ての兵士に支給されている異世界人と戦う唯一の手段、武装機械を開発した人達だよ」
「武装機械を?」
勿論その話しは康生は初耳であり、自分の父母がそんな事をしたなんて知らなかった。
「だから君がこの十年間生きるだけの施設があったのは納得したよ。恐らくその地下は君の両親二人の研究室だったのだろう」
確かにあそこは両親がよく使っていた研究室だったと康生は思い出す。
ともあれ、康生の話しが本当のことだと信じてもらえることに成功し康生は安堵する。
「なるほど……。それだと今までの知識や技術についても納得できる……」
康生の横では時雨さんも納得したように頷いていた。
そんな中、康生はある一つの疑問を浮かべた。
「あ、あの、父さんと母さんは今どこにいるんですか?」
そう。両親が生きていることを知った今、康生は十年ぶりに会いたくなってきた。
今までの活躍を両親に自慢したい心もあるし、それになにより父さん達だったらエルの夢を叶える手助けをしてくれると思ったからだ。
しかし康生の言葉を聞いた瞬間、都長と時雨さんの表情が曇る。
「え、えっと……?」
急変にした二人の空気に康生は戸惑いの表情を浮かべる。
しばらく間があいたあと、都長は重い口を開けた。
「――君の両親は現在行方不明になっているんだよ。噂によれば異世界人に殺されてしまったとか」
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