第113話 制限

「あの人は……?」

 一人の女性が歩いてくるのを見て、エルは近くにいた隊長に小声で訪ねた。

「あの方はこの地下都市の都長を務めている方です」

「あの人が都長……」

 その話しを聞いていた康生もエル同様に少し驚きの表情を浮かべる。

 勝手なイメージだが、都長というのは男の人がやるイメージがあったからだ。

 そしてその都長はゆっくりと時雨さん達の前へと歩いていく。

 その左右には護衛のように二人の兵士が皆とは違う鎧を着込んで歩いている。

「どうやら他の都市の隊長も一緒のようで。それに子供まで。あぁ、そういえばそこの子供が兵士達を壊滅させたとか。それで、これは一体どういうことか説明てしくれるんでしょうね?」

 ゆっくりと微笑むように、それでいてどこはかとなく威圧感を覚える表情で都長は説明を求める。

「それは私からさせていただきます」

 とそんな中、一歩前に進み出たのは時雨さんだ。

 時雨さんは都長相手でも臆することなく、堂々とした立ち振る舞いで答える。

「我々が今回ここに立ち寄らせてもらった訳は、我々の地下都市とこちらの地下都市で協定を結んでほしいというお願いをしにきました」

「――なるほど協定」

 時雨さんの言葉を耳にした都長は少しの間、目を閉じて熟考するように考える。

 そしてしばらくして目を開けると、時雨さんではなく、背後にいるエル、それに康生に視線を動かす。

「確かそちらのお嬢さんが異世界人とかで。しかも敵である兵士達の傷を治してくれたと聞きましたが?それは本当で?」

「は、はい。わ、私は異世界人です」

 鋭い視線で見られたエルは怯えながらも口を開いた。

 そんなエルをしばらく値踏みするように都長は見つめる。

 その後、もう一度視線を康生にずらす。

「もしかしてそちらの少年も異世界人じゃなくて?」

「い、いえ。俺は人間です」

 恐らく子供一人で兵士達を全員倒したという話しを聞き、康生までもが異世界人だと思ったのだろう。

 いくら口で否定してもさらに疑われるかと覚悟していた康生だが、都長の言葉を聞き安心する。

「まぁ、人型の異世界人が魔法も使わずに戦うなんてのは聞いたことがない。だから恐らく少年は人間なんでしょうね」

 どうやら康生の戦闘の様子を事細かく兵士達から聞いていたようだ。

「そ、それで協定の話しなのですが……」

 しばらく沈黙が訪れた後に、時雨さんが脱線していた話しを元に戻す。

 すると都長はにっこりと微笑む。

「いいでしょう。話しだけでも伺いましょうか。その代わりあなた方の行動はこちらで制限させていただきます。といっても監視をつける程度ですが」

「それで構いません」

 こうして時雨さんは無事に都長と話しをすることができるようになり、康生達は監視付きではあるが地下都市に入ることが許された。




「――やはり後をつけて正解だったな」

「最近、人間の動きが活発だってのは本当みたいですね」

「よし、すぐに戻って人間達の住処が見つかったと報告するぞ!」

 康生達が地下都市に入っていくのを見る複数の視線に誰も気づくものはいなかった。

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