第106話 牛

「――あぁ〜おいしかった〜」

 皆で食事を囲んで食べ終わった直後、エルがお腹をさすって大きく寝転がる。

「食べてすぐ寝ると牛になるぞー」

 とそんなエルを見て康生は思わず口を出す。

「えっ?何それ?」

 しかしエルは康生の言った意味が分からずに聞き返してくる。

「あっ、エルは異世界人だから分からないのか」

 康生達人間の独特の言葉だから恐らく異世界人のエルには通じなかったのだろうと康生はすぐに理解する。

「食べた後すぐに寝ころぶと太ってしまう、という意味だよ」

 と時雨さんが康生の代わりに説明する。

「へぇ〜そうなんだ」

 やはりエルは女子なのか、時雨さんの説明を聞くとすぐに起きあがった。

 とはいっても、エルはとても細い体をしていてるのでそんなに気にしなくてもいいんじゃないかと康生は思った。

「さて、じゃあ康生さっきの話しの続きだ」

 食事を片づけ終わると再度時雨さんが近づいてくる。

「ん?何々?」

 時雨さんの声が聞こえたのか、エルも近づいてくる。

「武器の使い方を知っておいたほうがいいという話しだよ」

「使い方を?」

 やはりエルも康生同様、時雨さんの言葉に疑問を浮かべる。

「例えば――」

 言葉を補足するように時雨さんがわかりやすいように例を挙げる。

「康生が槍を使う相手と戦うとしよう」

「うん」

 時雨さんの言葉を聞きながら康生は頭の中で槍を持って敵を想像する。

「康生なら普通に戦ったら勝てるだろうが、それでも苦戦するかもしれない」

「う、うん」

 勝てるか分からないよ、と康生は言おうとしたが、今は余計な事は言わない方がいいと感じ口を閉じる。

「でも康生が槍を使う場合の戦闘方法を知っておけばいくらでも対処できる。つまり、相手の武器での戦い方を知っておけば、相手の動きをより想像しやすくなるということだ」

(なるほど)

 ようやく康生は時雨さんがいいたい言葉を理解した。

 確かにその武器での戦い方を知っていれば、多少は相手がどう攻撃してくるかを読みやすい。

「現に康生が広場で戦ったあの隊長には針を全て防がれてただろ?」

「う、うん」

 確かにと康生は考える。

 あの時、康生が放った針は全て防がれてしまった。

「あの隊長は遠距離武器をよく使う。だからこそ、相手が遠距離攻撃をする時、どこをどう狙ってくるのかがよく分かってる。だからこそ全て防がれたんだ」

「なるほど……」

 康生は口に出して納得する。

 そして武器の使い方を知るという事がいかに大事かを実感する。

 さらに隊長が説明をする。

「我々兵士は一度、色んな武器を使わされる。色んな武器を使って使い方を知るという意味もあるし、さらには自分に合った武器を見つけるという意味もある。時雨さんなんかはそのいい例だ」

 隊長の説明を聞き、康生はチラリと時雨さんの武器である長刀を見つめる。

 確かにこの武器は時雨さん以外使っている人を見たことがない。

 恐らく、時雨さんが兵士になる頃に出会った武器なのだろう。

「という事でどうだ?康生も色々と武器の使い方を知ってみないか?」

 と時雨さんは再度訪ねてくる。

 勿論答えはもう決まっていた。

「よろしくお願いします」

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