第105話 使い方
「康生、少し聞きたい事がある」
食料の準備をし終え、少し時間が空いた時、時雨さんが康生に近づいてきた。
「どうかしましたか時雨さん?」
「いやちょっと気になったことがあってな」
気になった事?と康生は首を傾げる。
しかし思い当たる節がないので康生はじっと時雨さんの言葉を待つ。
「康生はどうして戦闘中に武器を使わないのだ?」
「武器、ですか?」
確かに康生は広場での戦闘でも、地上で見せた戦闘でも武器は使っていなかった。全て素手で対処していた。
使った道具といえばペンや煙玉だけで、やはりメインは素手で戦っている。
「いや、何。康生だったら武器で戦った方が強くなるはずなのに素手で戦っているから何か考えがあるのかと思っただけだ」
考え。
確かに康生の中では素手で戦闘を行うことは考えあってのことだ。
その考えとは、
「素手で戦う方がより相手が傷つかないかなって思ってて……」
と恥ずかしそうに言う。
「傷つかない……?」
康生の答えを聞き時雨さんは首をひねる。
そんな康生の話しを聞いていたのか、隊長達が話しに混じってくる。
「……確かに昨日の戦いで重傷を負った者はいない。というか、皆怪我といえば打撲ぐらいで他は全然だった」
そう言って隊長は兵士達の様子を語る。
昨日の戦いで康生にやられた兵士は皆気絶していたようだが、それらも全て大きな怪我はなかったようだ。
だからこそ兵士達は先に地下都市へと帰ることになったのだ。
そしてそれを聞いて康生は少しだけほっと胸を撫でる。
「相手を傷つけるのってちょっと怖くて……」
と恥ずかしそうに康生は頭を掻く。
隊長達はそんな康生の様子を見てさらに心の中で康生への評価をあげる。
だがそれと同時に時雨さんは康生の事を考える。
「じゃあ今から武器の使い方を覚えてみないか?」
「武器の使い方?」
いきなり時雨さんが提案する。
「あぁ。かといって康生に武器を使えと言うんじゃない。ただ武器の使い方を知ってほしいだけだ」
「知るだけ……?」
時雨さんの言葉に康生は頭に疑問を浮かべる。
一体武器の使い方を知る事でどうなるのかと。そんな疑問が浮かぶ。
だがそれは康生だけのようで、隊長達も時雨さんの言葉に納得したように頷いてた。
「そう。使い方を知るだけで格段に戦いやすくなる」
さらに時雨さんが言葉を続けるが、やはり康生の頭では理解できずにいた。
どうにか時雨さんの言葉を理解しようと頭を動かそうとする康生だったが、やがて康生のお腹から小さな音がなる。
「――そろそろ食事にしようか」
「は、はい……」
お腹が鳴ったことで話しは一端中断となった。
だが、
「食事が終わったらもう一度」
と時雨さんが去り際に小さく呟いたのだった。
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