第102話 帰路

「うぅ〜……まだ眠い……」

 時雨さんは頭を抑えるように呟く。

 顔色は少し悪いように見え、表情もげっそりとしている。

「大丈夫ですか時雨さん?」

「う、うん、大丈夫……」

 そんな時雨さんを気遣いながら康生達は時雨さんの自宅へと戻っていた。

 あれから、広場の中で皆が目覚めた後、広場の片づけは皆に任せて康生達は体を休めるため時雨さんの家に行くことになった。

 当然康生達は片づけを手伝おうとしたが、時雨さんの様子と、昨日の戦場での活躍から大丈夫と言われ、結局帰路につくことにした。

「大丈夫よ。時雨はいつも寝起きは悪いから」

 と心配している横でエルは気にせずという様子で言う。

 エルは康生のいない間、時雨さんと二人で生活していたわけだからもう慣れているのだ。

「まぁ、でも今日は、昨日までの大きな心配事が減ったおかげでいつも以上にぐっすり寝れたみたいだけど」

「大きな心配事?」

 もしかして何か時雨さんにあったのか?と康生は思考を巡らす。

 だがエルはそんな康生を見て「はぁ〜」とため息をつく。

「私も含め時雨はずっと康生の事心配してたんだからね?その事をよく覚えておいてよね!」

 エルがビシッと釘を指すように言ってきた。

「ご、ごめん」

 康生は少しの間、籠もって訓練する感覚だったから、まさかそこまで心配をかけていたなんて思ってもいなかったようだ。

 そして改めてエルに指摘され、申し訳ない気持ちが沸き上がってくる。

「ま、まぁ、あんなに元気に帰ってきてくれたんだからいいじゃないかエル」

 エルの話しを聞いていた時雨さんがそっとフォローを入れてくる。

「もぉ〜!時雨は康生に甘いよ」

 そんな時雨さんをエルは軽くつつく。

「ごめん、ごめん」

 時雨さんは少し元気を取り戻したようで、元気よく笑っていた。

 そんな何気ない会話をしながら康生達は家へと帰る。




「――さて、落ち着いた所で二人に頼みたいことがある」

 家に着いてしばらくした時、康生とエルが時雨さんに呼ばれる。

「急に改まってどうしたんですか?」

 時雨さんの態度から真剣な話しがあると感じた康生とエルはじっと身構える。

 しかし時雨さんはしばらく口ごもる。

(それほど言いにくいことなのか?)

 そんな時雨さんの態度に康生は少しの嫌な予感を感じる。

 もしかしたら何かあったのではないかと。

 しかしそんな康生の心配も杞憂に終わる。

「康生。エル。二人はこれから私と一緒に他の地下都市に行くのに着いてきてほしい」

 時雨さんの口から語られた言葉はやけに簡単な言葉だった。

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