第101話 寝起き

「う、う〜…………」

 康生は重たい瞼をゆっくりと開ける。

「ふわ〜」

 ゆっくりと起きあがりながら大きな欠伸をこぼす。

 目を細めながら辺りを見渡す。

「そうか……あのまま寝ちゃったんだ」

 どうやら康生、それにエルや時雨さん隊長達や皆、広場での宴会中にその場で寝てしまったようだ。

(本当にお酒でも入ってたんじゃないか?)

 なんて康生は軽く考える。

 何故なら広場に倒れて寝ている皆の姿を見ると、酔っぱらいを彷彿させるからだ。

「とりあえず皆起こした方がいいのかな?」

 そうして康生はのっそりと起き上がり、近くで寝ていたエルと時雨さんを揺さぶる。

「んっ、ん〜」

 まず意識を戻したのは時雨さんだ。

「――もう朝か?」

 ゆっくりと開けた目の中に光が入ってくるのを感じた時雨さんはすぐさま起きあがる。

 流石は兵士だけあって寝起きはいいようだ。

 しかし、その隣のエルはいくら揺すっても中々置きる気配はしなかった。

「おはようございます時雨さん。ちょっと皆を起こすの手伝ってください」

 だから康生は時雨さんにも手伝ってもらおうとした。

「あっ、康生〜!」

 しかし時雨さんはまだ寝ぼけているのか、康生の姿を確認するや否や抱きついてきた。

「ちょっ、時雨さんっ!?」

 いきなり抱きつかれた康生はそのまま地面へと押し倒される。

「私今まで頑張ったの〜!だから褒めてほしいの〜!」

 まるで猫が甘えてくるみたく時雨さんが頬をすりあわせてきた。

「もしかして寝ぼけてます!?」

 あまりにもいつもと違う態度の時雨さんに康生は戸惑いの声をあげる。

 しかしいつか見た、時雨さんの甘い様子を思いだす。

(そ、そうか、確かあの時また頭を撫でてあげるって言ってたんだった……)

 康生はいつぞやの約束を思い出す。

「康生〜」

 しかし現状、康生は時雨さんに押し倒されているので頭まで手が届かないので撫でようにも撫でられない。

「ちょっとどいてもらっていいですか?時雨さん?」

 というが時雨さんは全く聞く耳を持たず、ひたすら康生に抱きつくばかりである。

「し、時雨さんってば!」

 そして康生もジタバタと抵抗する。

 するとその抵抗する手が近くにいたエルに思いっきり当たる。

「――いたっ!」

 エルが声をあげる。

「ちょっと痛いよ…………」

 今までいくら揺すろうが起きなかったエルが唐突に起きあがる。

(ま、不味い!こんな所をエルに見られたら……!)

「し、時雨さん早く!」

 エルに見つかるより前に康生は時雨さんをどかそうとする。

「ん?康生?」

 しかし間に合うわけもなく、エルは隣にいる康生に視線をずらす。

(ダメだ……!)


「…………」


 エルが無言で康生を見つめる。

 エルの表情を見るにもみれず康生はじっと目を閉じる。

 そしてそのままエルの気配がこちらに近づいてくるのを感じながら康生は必死に目を瞑る。

「時雨さん起きてください〜」

(え?)

 近づいてきたエルの言葉を聞き、康生は思わず声を出しそうになる。

「――もう。康生の上にまたがって寝るなんて寝相悪いですよー」

 エルの言葉が聞こえた瞬間、康生の頭上からスー、スーと寝息が聞こえるのを聞き、康生は思わず助かったと心から思ったのだった。

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